KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2023年8月号
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Q.『レンタル×ファミリー』を作ろうと思ったのはなぜですか?テレビ番組で人間レンタル屋さんという職業を見て「面白い仕事だな」と思ったのが始まりです。調べてみると、人間レンタルの会社を経営している石井裕一さんの著書が出てきました。石井さん本人の写真が表紙になっていることに違和感を感じて、すぐに取材を依頼しました。石井さんは、“レンタル父親”を25組請け負っていて現在進行中だと言う。にもかかわらず、自分の顔を表紙に載せる。普通、できるだけ顔を隠すと思うんですよね。はじめは職業として興味をもったけれど、取材を進めるうちに石井さんという人物にも興味が湧いてきました。ビジネスと言いながら、石井さんは「ひとを幸せにしたいだけなんです」と断言する。キャッチコピーにしたこの言葉が、人間レンタルの肝だと感じました。Q.取材をすることで違和感はなくなりました?いいえ。違和感もなくならないし、人間をレンタルすることも、それをビジネスにすることも、僕は賛成ではない。でも利用する人がいて、会社は年々右肩上がりと聞くと反対とも言えない。何よりそこに悪人はいないわけですから。制作チームで話をすると、皆、感じ方は違っていて、皆、僕と同じく答えが見つからないと。ならば、僕たちが感じているそのままを表現しようということになりました。答えは一つではない、というのが僕たちの答え。「あなたはどう思いますか?」と答えは観た人に委ねたい。問題提起でもあります。Q.利用者への共感はあったのですか?僕はないです。ないですが、利用者もただ「幸せになりたい」だけなんですよね。シングルマザーが3組登場します。それぞれ事情は違いますが、共通してるのはお母さんは子どもの“お父さん”が欲しかった。それが子どもの幸せだと信じてのことです。この気持ちを非難することなどできない。ただ、物を買うように幸せも買えるのかな、というところです。Q.本当に子どものためなのでしょうか。昔は両親の他に祖父母もいて、ご近所さんがいて、みんなで子どもを育てた。核家族化がすすんで、親が孤独になってしまった。と嘆く議論がありますが、僕はそこに疑問は持っていないんです。お父さんがいる、いないではないと思います。それよりも、いろんな家庭があっていろんな価値観があることを認めあう社会、大人がもっと堂々と“自分は自分”と考えられたら、その方が子どもも幸せなんじゃないかな。Q.映画監督になろうと思ったきっかけを教えてください。井筒監督の『岸和田少年愚連隊』です。それまでは、金曜人間レンタルサービスに感じたこと師匠は井筒和幸監督31

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