KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2023年8月号
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いことでもあるんですよ」と心情を吐露した。暗闇から生まれる怪談怪談ナイトでは毎回新しい怪談が披露されるが、いったいどうやって作り出されているのだろうか。「毎年、怪談のツアーが始まる前に別荘にこもって脚本を練りあげていくんです。今年は4月1日から5月12日まで別荘にこもって新たな怪談7~9本の構想を練っていました」ひと月以上、人里離れた別荘にこもり、怪談は生み出されていく…。この孤独な作業を、もう30年近く、毎年続けてきたという。「深夜に脚本を書いていて朝が近づいてくると、海岸線から太陽が昇り始めてくるんです。美しいですよ。でも夜、別荘の周辺は本当に真っ暗なんです。東京などの都会とは違って、辺り一面が暗闇。街灯がまったくない田舎ですから」太平洋の海を見下ろす丘の上に別荘はあるという。が本当にうれしくてね。田舎のおじいちゃんに会いに来るような気持ちで来てほしい。今年もまた会えたね、と話すのが今から楽しみで」怪談ナイトは、昨年11月末までに通算公演回数が960公演に達し、総観客動員数は約66万人。公演で語り続けてきた怪談の数は計486話に及ぶ。そして、ついに今年の全国ツアー中に通算1000回の大台を達成する予定だ。「えっ、そうなんですか?」と、意外にも本人はこの数字、その偉業を認識していなかった。「もし、意識して回数を数えていたら、とても今まで続けることなどできなかったのではないかと思います。今まで続けられてきたことは、会場へ来てくれるファンの人たちからのプレゼントなのではないか。そう思っています」と謙虚に語る。そして、「毎年私を待っていて、応援してくれる人が全国にいるからできたこと。もちろん怪談が好きだから続けてこられたのですが、好きでやることは実は苦し「最近は周囲の住人が皆、年を取り、一軒一軒…と空き家が増えていって。だから別荘の周囲はどんどん淋しくなり、暗闇が広がっています」と苦笑する。だが、ネオンや街灯などで夜も暗闇にならない都会とは違う環境の中から、聞く者たちが皆、身を震わす怪談が生み出されていのだ…ということが分かる。気になるのは今年の怪談の内容。そのヒントを少しだけ聞いてみた。「今年の怪談ですか?事件なんです」と突然、声を潜めた。声を潜めた理由。それは、これまで現実の事件を、怪談のテーマにすることを封印してきたからだ。「怪談は日常と非日常のすき間にあるもの。恐怖や怪談は娯楽にしておきたい」を自らの信条とし、怪談を語ってきたのに、なぜ?「ある60年前の事件が絡んでいます。その事件が現在になって重なってしまったんです。私が高校生時代に初めて見てしまった事件が、今年、また目23

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