KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2023年8月号
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満たされているのである。毎日の新聞紙面やテレビのワイドショーから飛び込んでくるニュースは、戦争だ、事件だ、殺人だ、自然破壊だ、と常にわれわれの日常は目に見えない恐怖に脅かされている。そんな恐怖の現実に遭遇する前に、恐怖のシミュレーションを体験して、本当の恐怖に直面した時、少しは緩和されておきたいという、そんな心理が、恐怖を先取りしておきたいという心理に結びついて、こんな展覧会が受けたのではないでしょうか。僕はこの展覧会を見るのが怖くて、実は見ていません。僕が怖いのは怪談的な恐怖ではなく、学芸員の想像力を恐れて、何をやらかしているのだろう、という無手勝流の企画を見るのが恐ろしくて見ないだけの話です。また、僕が見に行くと、何を言い出す神戸で始まって 神戸で終る ㊶なのかもしれないが、当の作家の僕は学芸員と一緒になって、面白がって喜んでいるのだから、タチが悪いというか、学芸員にとっては良き理解者である。とにかく、この第28回展『横尾忠則の恐怖の館』(担当・山本淳夫)は、今までの最高入場者数を誇った『開館記念展Ⅰ 反反復復反復』に次ぐ、歴代2位の入場者数を記録したというのだから、大ヒット展ということで、担当の山本さんは鼻高々である。何だったら、『恐怖の館』の第二弾をやったら、と言いたいところである。それとも一層のこと、美術館名を『横尾忠則恐怖の館』と改名してもいいですよ。世の中には怖いもの見たさの怖がり愛好者がうんとこさ、いるというわけだ。つまり、目には見えないが、この現実世界は恐怖で現代美術を完全にエンターテーメントにしてしまった。そして、大成功にさせてしまった。まあ、こんなことをやるのは横尾忠則現代美術館ぐらいで、他所の美術館は「怖がって」やろうとはしないでしょうね。誰がなんと言うだろうと、批判を恐れて手をつけません。他者の批判を恐れる以前に、先ず作家が怖がるにきまっている。だからやめとこということになるが、ここの美術館の学芸員は、作家の僕を全く恐れていない。つまり、礼節に欠けているとしか思えない。そして作家がむしろ喜ぶだろうと思って、怖々ではなく、喜々として、こんな計画を立てました、とプレゼンテーションをしてきた。そこで作家の僕は、「お前ら、なめてんのか!俺の神聖な芸術をなんと心得とる!」と怒るべきTadanori Yokoo美術家横尾 忠則撮影:山田 ミユキ1414

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