KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2023年7月号
93/124

   「チンパンジー」閉園前の王子動物園チンパンジーの檻の前ガラスに投げつけられたチンパンジーのうんこ を洗っておられる亀井一成さんに会った。「何でうんこを投げるん?」と長男が聞く。「人間が、石やなんかを投げるから物を投げ返すようになって、初めはバナナの皮なんかを投げてたんやけど、チンパンジーは賢いから、頭がいいから、人間の反応をよう見とって、うんこを投げると人間が『キャーッ』とか言って大騒ぎするから、嫌がるから、うんこを投げるようになってん。うんこを道具にしよるんや。今ではもう、真っ先にうんこを投げよる」時に厳しい眼、淋しい眼を交えながら、亀井さんはやさしく答えて下さいました。これに対する足立巻一氏の選評。《(略)悲しい話である。どうして人間は動物たちを心なくいじめるのか。亀井さんの哀しい目の色が見える。》そんなことがあってほどなく、亀井さんの講演会が「喫茶・輪」の隣の小学校であるのを新聞で知った。そこで先の詩の新聞記事のコピーを同封して、「時間があったらお立ち寄り下さい」と手紙を出した。すると氏は、会場へ行く前にやってきてくださった。たまたまお客さんの少ない時間帯で、贅沢にも妻とわたしの二人占めで動物談議を聞かせて頂いたのだった。腕をまくり上げて動物にかまれた傷跡を見せたりしながら。気づけば時間が迫っており、あわてて店を後にし、学校の塀沿いの道を手を振りながら走って行かれた後ろ姿を今も忘れない。(実寸タテ13㎝ × ヨコ9㎝)■今村欣史(いまむら・きんじ)一九四三年兵庫県生まれ。兵庫県現代詩協会会員。「半どんの会」会員。西宮芸術文化協会会員。著書に『触媒のうた』―宮崎修二朗翁の文学史秘話―(神戸新聞総合出版センター)、『コーヒーカップの耳』(編集工房ノア)、『完本 コーヒーカップの耳』(朝日新聞出版)ほか。■六車明峰(むぐるま・めいほう)一九五五年香川県生まれ。名筆研究会・編集人。「半どんの会」会計。こうべ芸文会員。神戸新聞明石文化教室講師。93

元のページ  ../index.html#93

このブックを見る