KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2023年7月号
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どといわれているようですがそんな方法はありません。体の中でうまくバランスを保って働いている免疫力を万が一高めてしまったら、自分の体を攻撃する自己免疫疾患を引き起こしかねません。もうひとつは感染経路を遮断する。「海外へ行かない」「性交渉はしない」などとリスクヘッジを言うのは簡単ですが、その人の生き方そのものを否定することになり、これでは医者の役目は果たせません。サッカー選手になりたいという人に「けがをするからやめなさい」と言い、エベレストに登りたいという人に「山は危ないからやめなさい」と言うようなものです。人生の目標を犠牲にしてまで健康になっても意味がなく、医者のやるべきことは「どうやってリスクを回避して安全に実行してもらえるか」を考え、技を駆使すること。とても大切なことだと思っています。岩田先生にしつもんQ.今では大学で教育にも携わっておられます。学生さんにどんなことを伝えたいですか。A.トレンドを追いかけるのだけはやめたほうがいい。これからも感染症がなくなることはありません。若い人たちにはお勧めの分野だと思います。でも強制はしません。そもそも人生は予定通りにはいきません、私のように(笑)。Q.健康のためにやっておられることは?A.走っています。ただし健康のためにではなく、サッカーができる健康な体を作るためです。健康は目的ではなく、やりたいことをやるための手段のひとつだと私は思っています。Q.なぜ感染症だったのですか。A.世界中どこへ行っても役に立てる人間になりたいと思っていて、感染症がない世の中などないので選択肢のひとつでした。決して微生物が大好きなわけではないです(笑)。Q.研究者にはなっていませんね。A.アルバイト程度で臨床もできるようになろうと思い、沖縄の病院へ実習に行きました。そこは当時、野戦病院のようだと言われていた病院で、臨床がそんなに甘いものではないと思い知らされました。ちゃんと臨床医学の勉強をしようとアメリカへ行って内科医になり、感染症の専門医になり、結局、基礎研究には戻れなくなってしまいました。Q.岩田先生が医学の道に進んだ理由は?A.高校生のころ、受験に合格するためだけの勉強がすごくいやで、大学に行ったらちゃんと総合的な勉強をしたいと思っていました。そのためには理系も文系も勉強できる医学部がいいだろう、医療には全く興味がないので卒業後は研究者になろうと思って進学しました。85

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