KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2023年7月号
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の』(86年)の撮影を始めたのは85年の秋からだ。敗戦でビルマ戦線から戻った復員兵3人組が海賊になって暴れまくる海洋アクション劇とはいえ、連日の海上撮影は初めてだし、出演者やスタッフと乗った小船に波が当たる度に足が浮いて、気力が集中しなかった。足を踏ん張って演技する20代半ばの真田広之や佐藤浩市、安田成美、今井美樹もテスト通りに芝居の間が取れず悪戦していた。でも、皆、撮影が大好きで昔から、映画は英語で「モーションピクチャー」と言われ、日本ではそれを直訳して「活動写真」と呼んできた。だから、ボクら映画屋は今でも「あのシャシン、かったるかったわ」などと言い合う。一度でいいから、「いいシャシンだった。気分が出てたよ」と先輩から挨拶代わりに言われるような、そんなものを撮ってみたかった。京都の大映撮影所をベースに瀬戸内海沿岸の街や小島に出向き、『犬死にせしもボクのリテイクの要求に何度でも応えてくれた。真田君は誰よりもタフで身のこなしがよく、船の操舵も巧かった。佐藤君は自分なりの無頼漢キャラをどう出すかいつも悩み、成美も美樹も一回一回の即興演技に苦心していた。やがて、冬になると、海の風は強くなり、気まぐれな雨も降り、潮の流れも速くなって錨も打てず、作業が難航して一日に1カットさえも撮れないで陸に引き揚げてヤケ酒を煽る日も多くなった。疲井筒 和幸映画を かんがえるvol.28PROFILE井筒 和幸1952年奈良県生まれ。奈良県奈良高等学校在学中から映画製作を開始。8mm映画『オレたちに明日はない』、卒業後に16mm映画『戦争を知らんガキ』を製作。1981年『ガキ帝国』で日本映画監督協会新人奨励賞を受賞。以降、『みゆき』『二代目はクリスチャン』『犬死にせしもの』『宇宙の法則』『突然炎のごとく』『岸和田少年愚連隊』『のど自慢』『ゲロッパ!』『パッチギ!』など、様々な社会派エンターテイメント作品を作り続けている。映画『無頼』セルDVD発売中。42

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