KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2023年7月号
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ようなものだ」首を傾げる二人に、怪人は説明する。「長い静かな闇の世界が何万年、何億年と続いていると考えてみたまえ。その中に一冊の本が落ちている。君たちはそれを読む。そして喜んだり悲しんだりする。そして読み終わる。そしてまた静かな黒い世界が何十億年と続く。生きている間というのは、漫画を読んでいるわずかの間だ」連載の最後に、私も常々興味を惹かれている死について、水木サンがどう考えていたか見ていこう。「鬼太郎夜話」では、物語の終り近くに、鬼太郎を亡き者にしようとした「人狼」とねずみ男が、暗闇の世界に流される場面が出てくる。当てもなく歩いていると、前から首無しの胴体を上下に重ねたような怪人がやって来て、こう言う。「人生とは一冊の漫画の本のたしかに我々は生きている間、笑ったり泣いたりする。面白い本を拾う人もいれば、つまらない本に当たる人もいる。分厚い本、薄い本、むずかしい本、簡単な本。どんな本を拾おうと、他人とは取り替えられない。運命論めいているが、比喩としては巧みである。そして、死とは永遠に続く「静かな黒い世界」というわけだ。一方、「不思議シリーズ」の第一話「不思議電車」では、人生知られざる  水木しげる水木しげる生誕100周年記念水木サンにとって死とは『鬼太郎夜話』他PROFILE久坂部 羊 (くさかべ よう)1955年大阪府生まれ。小説家・医師。大阪大学医学部卒業。大阪大学医学部付属病院にて外科および麻酔科を研修。その後、大阪府立成人病センターで麻酔科、神戸掖済会病院で一般外科、在外公館で医務官として勤務。同人誌「VIKING」での活動を経て、『廃用身』(2003年)で作家デビュー。vol.10(最終回)40

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