KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2023年7月号
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松 本 いっぱい作ったね。 『夏なんです』はやっぱり好きだな。細野(晴臣)さんと作った曲。僕の誕生日は7月16日、細野さんは7月9日だから、夏生まれの2人で作ってる。僕たちは都会の子だけどね、田舎が舞台の歌。はっぴいえんどの曲はね、やっぱり特別。 少年時代の思い出なんだけど、今もちゃんと覚えてるよ。母は変わった人で、夏休みに入ると実家に僕を丸投げしちゃうのね。おじいちゃんが東京に迎えに来て、高崎線に乗って一緒に田舎に向かう。2学期が始まる前に、今度は母が迎えに来るんだけど、僕はいつも隠れちゃう。帰りたくないって(笑)。 田舎が大好きだった。曲の中では畦道に変えたけど、メインストリートは石段になっていて、斜面の町。鎮守の森は父方の田舎にあって。夏の空模様とか蝉の声とか風とか。忘れないよね。 『カナリア諸島にて』は全く違って、行ったことない場所を書いた。小川国夫の小説に「カナリア諸島」ってワードがあって、 響きがきれいって思ったんだろうね。脳内に残ってた。それから数年後、カナリア諸島のテネリフェ島で飛行機事故(1977年)があってね、ニュースを見て「本当にある島なんだな」と思った。曲を作ったのはその後。 小川国夫は20歳くらいの時にすごく好きで、あまりにも好きすぎて「この人を越えることはできないな」「小説家にはなれないな」って思わせた人。カナリア諸島の場面はセリフまで覚えてるよ。 実際にカナリア諸島に行ったのはずいぶん後になるけど、いつか確かめに行きたいとは思ってたの。僕の想像のイメージで合ってるかどうか。でも行くことになった理由は別にあってね、指揮者のカルロス・クライバーなんだ。  90年代、僕は仕事を休んでた時期があって、その頃はスケジュール帳が真っ黒になるくらい、観劇したり音楽を聴きに行ったりしてたのね。巨匠と言われる指揮者がまだ健在で、景気が良くて日本公演も盛んだったから、レナード・バーンスタインも聴いたし、セルジュ・チェリビダッケは追っかけみたいに日本国内での公演を全部聴いて回った。カルロス・クライバーも大好きで、カナリア諸島で公演があるって情報を耳にして、行ってみようと思ったの。 カルロス・クライバーはキャンセル魔で、あちこちでドタキャンしてはニュースになる人なんだけど。リハーサル中にオーケストラとケンカして、指揮棒を折ってそのまま空港行って帰っちゃったとかね(笑)。でもカナリア諸島まで行ってキャンセルはしないだろうと思って。予想通り、2公演ともちゃんと演奏してくれた(笑)。カナリア諸島は、ハワイみたいにいくつかの島があるんだけど、テネリフェ島が1番歌のイメージに合ってた。建物の感じがエキゾチックで、島全体の雰囲気があの詩の通り。直すところはないなと思ってホッとしたよ。meme また行きたいですか?松 本 遠いからもういい(笑)。『セイシェルの夕陽』のセーシェルにもまだ行ってないんだけど遠いな。海賊もいそうな海域だし。ちょっと怖いな(笑)。21

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