KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2023年6月号
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ボクの方は、「イッキ」も「ひょうきん族」も流行りには見向きもしないで、ひたすら自分流の映画を撮りまくって、そして、新作だろうが旧作だろうが洋画を中心に映画館に逃げ込む日々だった。テレビの中の軽佻な娯楽に気がいかなくなったのもこの頃からだ。60年代半ばの中学生の頃から、映画に心を奪われて以来、人生の友は銀幕の幻影の他にはなかったのだ。85年は京都太秦の東映撮影所に、大映撮影所にと、ほん振り返ってみれば、1985年は世の中全体が浮足だっていた時代だった。この年の流行語は大学生が飲み会で囃し立てる「イッキ!イッキ!」や「キャバクラ」で、「おニャン子クラブ」という女子集団が夕方のテレビに出現し、「オレたちひょうきん族」も茶の間の笑いを独占していた。小松左京の『首都消失』というSF小説は虚栄と肥満の東京が、突如現れた謎の巨大な雲でパニックを引き起こすさまを描いていた。とによく出向いたものだ。自分がイメージした画面をなるべく変形しないように壊さないようにして、フィルムに写し撮っていく。この頃の撮影現場は一番愉しくて充実していたように思う。撮影所の若い大部屋俳優らと大食堂で喋っていたのもまるで昨日のようだ。ボクが「『ゴッドファーザー』(72年)の、あのハリウッドの金持ちプロデューサーの邸宅のベットに放り込まれた馬の首は美術部が本番寸前まで冷蔵庫に入れて井筒 和幸映画を かんがえるvol.27PROFILE井筒 和幸1952年奈良県生まれ。奈良県奈良高等学校在学中から映画製作を開始。8mm映画『オレたちに明日はない』、卒業後に16mm映画『戦争を知らんガキ』を製作。1981年『ガキ帝国』で日本映画監督協会新人奨励賞を受賞。以降、『みゆき』『二代目はクリスチャン』『犬死にせしもの』『宇宙の法則』『突然炎のごとく』『岸和田少年愚連隊』『のど自慢』『ゲロッパ!』『パッチギ!』など、様々な社会派エンターテイメント作品を作り続けている。映画『無頼』セルDVD発売中。48

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