退却すると、戦友の「加山」が被弾して倒れる。衛生兵が「遺骨を作るんだ」と丸山と駆けもどり、円えん匙ぴ(小型のショベル)で小指を切れと命じる。丸山は「まだ生きてますよ」と言いつつも、衛生兵に急かされ、懸命に円匙を当てるが、うまく切れない。弾丸と雨粒が降り注ぐ中、「早くやらんかーっ」と怒鳴られ、なんとか小指を切って、息のある加山を置き去りにして退却する。戦後80年近くたっても、何かというと戦争反対、平和を守れというような発言を聞かされ、少々ワンパターンすぎて現実味が薄れてしまいかねない。しかし、水木サンの描く戦争はちがう。リアルで具体的で、かつ強烈に胸を打つ。たとえば『総員玉砕せよ!!』の一場面。驟雨の中の行軍で、いきなり機銃掃射を受け、兵士たちが逃げ惑う。水木サンがモデルの「丸山」が命より遺骨を大事にするという、倒錯した現実が描かれる。兵士たちの死も、通常の戦死ばかりではなく、マラリアで死に、デング熱で死に、衰弱で死に、味方の誤射で死に、手りゅう弾の自決で死に、海で捕まえた魚をのどに詰めて死に、ワニに食われて死ぬ。もちろん戦死も多く、銃弾に当たって死に、爆撃で死に、戦車に轢かれて死に、敵に狙撃されて死に、小便の途中に艦砲知られざる 水木しげる水木しげる生誕100周年記念心に迫る反戦の思い『総員玉砕せよ!!』PROFILE久坂部 羊 (くさかべ よう)1955年大阪府生まれ。小説家・医師。大阪大学医学部卒業。大阪大学医学部付属病院にて外科および麻酔科を研修。その後、大阪府立成人病センターで麻酔科、神戸掖済会病院で一般外科、在外公館で医務官として勤務。同人誌「VIKING」での活動を経て、『廃用身』(2003年)で作家デビュー。vol.946
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