KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2023年6月号
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いいなと思う曲があれば歌ってみたらいいと思う。時代を経て曲がアップデートするのはいいことだから。meme 南佳孝さんの『スローなブギにしてくれ』は出だしから難しそう。松 本 「Want you」ね(笑)。南佳孝を越えるのは難しいだろうね。歌の上手さと声の艶と色気と。最近またよくなってる。佳孝には、Jean GabinやJean=Paul Belmondoをイメージした男くさい詩が書けるの。そんなにかっこよくないか(笑)。 鈴木茂はまったく違う。茂は今でも少年のような歌が歌えるから、はっぴいえんど時代に戻って詩が書ける。昨年作った『トアロードのハレ娘』もそんな感じ。歌ってるのを聴いたら、茂の歌だなと思ったよ。個性の違う2人の歌を作るのが今、おもしろい。meme 自分らしさを出すって難しいですよね。まずは「自分らしさって何だろう」からです。松 本 人間の歴史はたいていのことは真似から始まるんだよね。なんでもそう、絵画なんかも基本は真似から。でも右から左にそのまま真似するのはダメで、まずはひとひねり、1回だけひねって、自分のものにする。どうひねるかだと思うよ。 クラシックで例えると、モーツァルトの中にバッハのそっくりがあるし、ベートーヴェンにはモーツァルトのそっくりがある。シューベルトにもモーツァルトがある。真似しながら覚えていったんだよね。真似して、引き寄せて、自分のものを見つけていく。…センスなんだろうね。細野さんのセンス、佳孝のセンス。センスは真似できない。人工知能には持てない。みんなそうして自分のフィルターを作っていく。僕だってそう。松本隆をそうして作ってきたと思う。簡単ではないけど、僕はチャレンジするのが好きだから。~神戸を離れて~今月は大阪泉州に。関西が舞台となった『愛染橋』(歌/山口百恵 作詞/松本隆 作曲/堀内孝雄 )と同じ名の『愛染橋』を訪ねました。松本 スターだった百恵さんが恋をしていた頃に依頼を受けた曲。プロデューサーが、結婚してほしくないから悲恋を歌わせたいと。今思うとおかしな話なんだけどね。大阪市内にあったはずの『愛染橋』は病院になってたから、もうひとつの『愛染橋』に来れてよかった。恋をしていても、百恵さんは歌詞に込めた物語を素敵に歌ったよ。21

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