KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2023年6月号
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時代背景は終戦間もないころ。あちらの町の子どもたちと、こちらの子どもたちが川を挟んで諍いをする内容だがテーマは重いもの。山下さんの絵は、土手に立つ三人の子どもの挑戦的な姿。いかにも終戦直後の貧しい子どもたちだ。その欄は、西宮に所縁のある文芸作品を取り上げて宮崎翁が解説するもので、人間味あふれる文章が魅力的だった。第一回が田辺聖子さんで1983年5月号だった。1986年4月号の33回をもって終了しているのだが、谷崎潤一郎や井上靖、野坂昭如などの有名作家に混じって、わたしのような無名人も何人か登場している。いかにも宮崎翁らしいなさり方だ。そのバックナンバーをわたしはすべて保存しているが、そのいずれにも山下栄市さんの挿絵が載っている。さすが宮崎翁のご指名があった(と思われる)人の絵だ。どれもが内容に即していて、登場人物の心の機微が見事に描かれている。気になってわたしは、「山下栄市」さんをネットで調べてみた。しかし一切浮上して来ない。ということはプロの画家さんではなかったのか。しかしこれだけの絵を描ける人だ。ますます気になる。どんな人だったのだろう。宮崎翁がご健在なら即座にわかるのだが、それはもう叶わない。そこで『六甲』の現代表、田岡弘子さんに電話で訊ねてみた。だがやはり、ご存知ではなかった。ことのついでに、『朴の花』に載っている山下さんの装画の写真を送って頂いたが、「文学の小道」の挿絵とはまた趣が違っている。朴の花が大きく描かれていて、清らかだ。        ところで山下栄市さん、あなたは今どうしていらっしゃいますでしょうか。お元気でしたらご一報いただけませんでしょうか?(実寸タテ15㎝ × ヨコ10.5 ㎝)■今村欣史(いまむら・きんじ)一九四三年兵庫県生まれ。兵庫県現代詩協会会員。「半どんの会」会員。西宮芸術文化協会会員。著書に『触媒のうた』―宮崎修二朗翁の文学史秘話―(神戸新聞総合出版センター)、『コーヒーカップの耳』(編集工房ノア)、『完本 コーヒーカップの耳』(朝日新聞出版)ほか。■六車明峰(むぐるま・めいほう)一九五五年香川県生まれ。名筆研究会・編集人。「半どんの会」会計。こうべ芸文会員。神戸新聞明石文化教室講師。109

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