KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2023年5月号
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ら、ラストシーンの敵の屋敷での大立ち回りまであれやこれやと片っ端からイメージして、場面を考えるので頭が休む暇がなかった。京都の嵐山の旅館に籠って書き改めた脚本のページ数は元の分量よりだいぶ厚くなって、プロデューサーから「なるべく台詞を割愛してよ」と言われた。でも、折角書いた好きな台詞ばかりだ。勿体なくて切らずに残して現場で役者に言わせていたら、8月の編集作業に入って完製作途上にある映画は、どれだけ素晴らしく感動的な脚本が用意されていても、画像作りのセンス、役者たちの風貌や演技のセンスでどうにでも変わってしまうものだ。85年の6月から、『二代目はクリスチャン』というやくざコメディーの監督に抜擢されたボクは京都の東映撮影所に入り、撮影準備に追われた。封切り日が9月中旬と決まっていて目が回る忙しさだった。シーン1の神戸の山手にある教会の葬式場面か成尺に縮める時に七転八倒したものだ。現場のアドリブ台詞も切りたくないし、撮影に一日費やした場面を丸ごと切り捨てることもあった。公開は二本立てなので上映時間を守るしかなかった時代だ。そして、誰の一言やどの場面が不要で、どんな画面が足りないのか、繋いで初めて分かった。映画はイメージの連鎖だ。繋ぎ終わらないと物語が見えなかった。仕上げを終えて東京に戻り、宣伝キャンペーンで福岡や井筒 和幸映画を かんがえるvol.26PROFILE井筒 和幸1952年奈良県生まれ。奈良県奈良高等学校在学中から映画製作を開始。8mm映画『オレたちに明日はない』、卒業後に16mm映画『戦争を知らんガキ』を製作。1981年『ガキ帝国』で日本映画監督協会新人奨励賞を受賞。以降、『みゆき』『二代目はクリスチャン』『犬死にせしもの』『宇宙の法則』『突然炎のごとく』『岸和田少年愚連隊』『のど自慢』『ゲロッパ!』『パッチギ!』など、様々な社会派エンターテイメント作品を作り続けている。映画『無頼』セルDVD発売中。46

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