KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2023年4月号
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入れます」と。これは腕の点滴から。この眠くなる麻酔はこれまで何度も経験している。自分が寝落ちするところを一度見極めてやろうと思うのだが、いつも失敗して、気がついたら手術は終わっているのだった。バカですね、そんなこと出来るわけないのに。「眠くなってきましたか?」の声に「はい、少し」と答えて間もなく、気がついたら今回も終わっていた。「イチ、ニッ、サン」でベッドに移され、病室に運ばれた。意識はしっかりあるが、腰から下はまだ全く感覚なし。そのうち左足は少しずつ戻ってきた。ところが麻酔をしてもらった時に下になっていた右足が戻らない。死んでいるよう。生きている左足で右足を触ると、まるで別人の足なのだ。なんで俺のベッドに他人がいるんだという感じ。こんな感覚は初めてのこと。麻酔医さんが様子を見に来て、「どうですか?戻りましたか?」と訊いて下さる。「右足が全く戻らないんです。大丈夫でしょうかねえ?」とわたし。「下になっていたので、効きが強かったのでしょう。そのうちに戻りますから」と言ってくださった。しかしわたしは、(このまま戻らなかったらどうしよう?)と不安だった。そのあと眠ってしまって、次に目覚めたら、少し動くようになっていて安心したのだった。それにしてもあんなに時間差があるとは驚きだった。寄り道が長引いてしまった。『梟の拳』のことだった。出久根さんが2時間余で読み切ったとおっしゃるのだから、いくらわたしが遅読でも、三泊四日もあれば読み切れるだろうと思い、別に一冊の本も用意していた。『梟の拳』はたしかに面白く、わたしにしてはどんどん読めたが、読み終ったのは退院予定時間の30分前だった。われながら読むのが遅すぎる。(実寸タテ10㎝ × ヨコ15㎝)■今村欣史(いまむら・きんじ)一九四三年兵庫県生まれ。兵庫県現代詩協会会員。「半どんの会」会員。西宮芸術文化協会会員。著書に『触媒のうた』―宮崎修二朗翁の文学史秘話―(神戸新聞総合出版センター)、『コーヒーカップの耳』(編集工房ノア)、『完本 コーヒーカップの耳』(朝日新聞出版)ほか。■六車明峰(むぐるま・めいほう)一九五五年香川県生まれ。名筆研究会・編集人。「半どんの会」会計。こうべ芸文会員。神戸新聞明石文化教室講師。93

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