KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2023年4月号
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を作って、「国民を型にはめて便利に使いやすくいたしましては」と提案する。翌日、ゴマが子どもたちを集めて、「期待される子供像」の制定を持ちかけると、みなが「今更めんどうくさいじゃないか」と反対する。「そういうなよ。政治はむずかしいんだ」とゴマが弁解すると、三太は「なにかをたくらむからむずかしくなるんだよ」と、またもシビアな指摘を飛ばす。しかし、ゴマは泥棒やいじめを未然に防ぐためだとごまかし、協議に持ち込む。ねずみ男が大統領に「三十八度線川」の向こうにネズミが増えて、こちらの貯蔵芋をねらっていると吹き込むと、ゴマはニキビにおもねりながら、猫を飼って防衛すればと提案する。三太をはじめとする“庶民”は、芋の貯えなどないので、ニキビの“隠し芋疑惑”に気づき、「『期待される子供像』で大分自由を失ったやさきじゃねえか」と猫を飼う計画に反対する。すると、ゴマは隠し芋は飢饉に備えた大統領の深い思いやりだとごまかし、猫を飼うことも、こっそり芋を貯えている者は賛成するはずだと主張する。三太が「ネズミにかじられるほどもっているものは」と反論すると、ゴマは「てめえ、共産党のような皮肉をいうが」と、時代を超越したセリフを放ち、芋の蓄財の自由を強弁する。三太が「芋を守るなら芋のありかを公表したらいいじゃないか」と詰め寄ったところで、ニキビが登場し、「おめえ『期待される子供像』に反してるゾ」と、こん棒で殴ろうとする。ところが足を滑らせて転倒し、三太に逆襲され、飛び出してきた子どもたちが、「あッ! クーデターだ」と叫んで、三太は無投票で次期大統領になる。ニキビとゴマは追放され、ゴマが「土方でもしましょうか」と言うと、ニキビは「一度大統領をやった人間が真面目に勤労なんかできるかい」と、これまた実もフタもないホンネのセリフを返す。そこへ再びねずみ男が現れ、政権を取りもどしたいなら、「『くさった政治』を行えばわけはないのだ」と入れ知恵をする。ここまでの流れでわかる通り、この作品は政治と国民生活、法と自由、経済と防衛などを象徴的に取り入れた寓話になっている。猫を飼う計画が「三矢研究」(作品当時に発覚した朝鮮半島有事を想定した自衛隊の極秘机上演習)と名づけられているのも意味深だ。後編ではさらに痛しかゆしの政治寓話が語られる。「冴えてる一言」~水木しげるマンガの深淵をのぞくと「生きること」がラクになる~定価:1,980円(税込み)光文社 久坂部 羊さんの新刊39

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