少女が芋作りに忙しいと断ると、ねずみ男は「あなた美がわからないのネ」と揶揄する。と、少女はこう返す。「美?それは充分に芋を食べてから感ずることですわ」文化は衣食足りてこそ価値を持つということだ。芸術至上主義の文化人などには、到底承服しがたい指摘だろう。そこへ丸顔の「三太」が登場し、絹ネルの腰巻で少女たちを誘惑するねずみ男に、シ純真な子どもに社会の裏側を教えるのはどうかと思うが、かと言って絵空事みたいな理想ばかりでは、厳しい現実を生きていけない。水木サンの「こどもの国」は戦国時代に孤児となった子どもたちが、自ら集まり国を作ったところからはじまる。少女らが畑で芋を作っていると、ねずみ男扮する「腰巻デザイナー」が来て、桃色の腰巻を売りつけようとする。ビアな一言を発する。「貧乏人にものをほしがらせるのは商人のわるいくせだ」昨今のテレビCMにぴったりのセリフである。これがガキ大将の大統領「ニキビ」の怒りを買う。愛人(?)の「お軽」に桃色の腰巻を買ってやろうと思っていたからだ。三太が反論すると、ニキビは三太を殴りつけて黙らせる。この状況を見た書記の「ゴマ」が、「期待される子供像」知られざる 水木しげる水木しげる生誕100周年記念子どもに社会を学ばせる教科書にしたい『こどもの国』前編PROFILE久坂部 羊 (くさかべ よう)1955年大阪府生まれ。小説家・医師。大阪大学医学部卒業。大阪大学医学部付属病院にて外科および麻酔科を研修。その後、大阪府立成人病センターで麻酔科、神戸掖済会病院で一般外科、在外公館で医務官として勤務。同人誌「VIKING」での活動を経て、『廃用身』(2003年)で作家デビュー。vol.738
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