KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2023年3月号
44/136

ちょっと面食らうシロモノだった。監督は『ビッグ・ウェンズデー』(79年)でサーフィンに青春を賭ける風来坊たちを抒情たっぷりに描いてくれたジョン・ミリアス。まさか、彼がこんな戦争映画を作る作家だとは思わなかった。とても悍ましい話で悲壮な場面の連続だ。ある日突然、アメリカの田舎町に、ソ連やキューバなど共産圏の連合軍部隊が落下傘で降下してきて、侵攻が始まる。そこで、地元の若者たちは武器を手に取って山に逃げ込み、愛国戦士となっ85年の正月映画に、ボクの心を晴れやかにしてくれるものはなかったように思う。前年に起きた製菓会社への脅迫事件は解決していなかったし、世相は何となく殺伐としていた。映画館は、やる瀬なく退屈な現実からの格好の逃げ場所だし、毎日でもスクリーンの幻影と対話していたいのに、そんな思いに応えてくれる映画は見つからなかった。年末から公開されていた『若き勇者たち』(84年)なんていうアメリカ映画も監督名と題名に釣られて観たのだが、てゲリラ抗戦するのだが、なんと中国までがアメリカ側について参戦し、遂に核戦争にまで拡がってしまう。こんな悪夢のような近未来を正月早々に観てしまったのだ。べトナム戦争の映像も知らない日本の若い客は、こんな寓話をどう見るか気になったが、映画館には若者は少なく、日本はその戦争に巻き込まれないのか何も描かれず、大人の客は時間を持て余しているようだった。ボクは話自体にリアリズムが感じられず、ただ眺めていたのだが。井筒 和幸映画を かんがえるvol.24PROFILE井筒 和幸1952年奈良県生まれ。奈良県奈良高等学校在学中から映画製作を開始。8mm映画『オレたちに明日はない』、卒業後に16mm映画『戦争を知らんガキ』を製作。1981年『ガキ帝国』で日本映画監督協会新人奨励賞を受賞。以降、『みゆき』『二代目はクリスチャン』『犬死にせしもの』『宇宙の法則』『突然炎のごとく』『岸和田少年愚連隊』『のど自慢』『ゲロッパ!』『パッチギ!』など、様々な社会派エンターテイメント作品を作り続けている。映画『無頼』セルDVD発売中。44

元のページ  ../index.html#44

このブックを見る