KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2023年3月号
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最初に呼び出された貸本版の“悪魔”は、スーツ姿で頭にポマードを塗ったような悪相の紳士で、特段の魔力はなく、何ができるのかと聞かれて、「俺はケチでガメツイ。それと演技がうまいだけだ」と答える。まったくのダメ悪魔だが、これはこれで資本主義社会ではむしろ重要な資質であるところに、水木サンの慧眼が光る。次に出た『悪魔くん復活多くの人にとって、『悪魔くん』はテレビアニメや実写版、あるいは「少年マガジン」の連載版のイメージだろう。そこに登場する“悪魔”は、オリジナルの悪魔とはまったくちがっている。元々『悪魔くん』は、貸本屋時代に、極貧に喘いでいた水木サンが、戦争や貧乏のない理想世界を作るため、地底から悪魔を呼び出すという構想ではじめたものだ。千年王国』では、“悪魔”はマントを着た毛むくじゃらの怪物で、こちらも魔女を使えるくらいで大した能力はない。それどころか、ズル賢くて強欲で、最終的には悪魔くんを裏切る真に悪いヤツだ。それが「少年マガジン」の連載版では、前二作で登場していた頭に角のある禿げた天狗のような顔の「ヤモリビト」が、「メフィスト」として“悪魔”役になり、「悪魔くん」こ知られざる  水木しげる水木しげる生誕100周年記念『悪魔くん』シリーズに見る“悪魔”の変遷PROFILE久坂部 羊 (くさかべ よう)1955年大阪府生まれ。小説家・医師。大阪大学医学部卒業。大阪大学医学部付属病院にて外科および麻酔科を研修。その後、大阪府立成人病センターで麻酔科、神戸掖済会病院で一般外科、在外公館で医務官として勤務。同人誌「VIKING」での活動を経て、『廃用身』(2003年)で作家デビュー。vol.642

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