いながら、父と同じ落語家の道に進んだ息子の身を案じ、ずっと見守り続けてくれた母への思いがこもっていた。亡き両親へ誓う落語家として生きていく覚悟のようにも見えた。和子さんはこの会場に来ることを楽しみにしていたという。そんな和子さんと矩随の母の姿とが重なり、観客席は笑いではなく涙と哀しみであふれていた。「落語には陽と陰があります。陽が笑いであれば、陰は泣くこと。落語は笑いだけではありません。陰の落語もあるのです」そしてこうも語る。「落語とは、その人物を演じるのでも成り切るのものを練習し、2022年3月10日の寄席で披露する予定だったという。「その直前に母が亡くなり、とてもこれを披露できるような心境ではありませんでした。だから、このときは題目を変えさせてもらったんです」4月の三人噺で、母が亡くなってから初めて「浜野矩随」を披露したのだった。約900人の観客が固唾をのんで聞き入った。まるで、矩随が乗り移ったかのような鬼気迫る姿が、それまでの笑いに包まれた会場の雰囲気を一変させた。そこには今は亡き父、二代目春蝶への思いが、そして偉大な父を持つプレッシャーを背負でもなく、その人物の人生を生きること」と。常々、春蝶さんが語ってきたこの落語の持論を実践して見せたひとつの完成形が、この日の「浜野矩随」だった。50代に向かって「落語家は50代が一番面白い。これから本当の戦いが始まる。今は、そのための武器を準備する期間でもあるんです」現在48歳。この言葉通り、古典落語を追究する一方、創作落語にも力を入れてきた。その一つのシリーズ「落語で伝えたい想い」では、第二次世界大戦下の鹿児島・知覧特攻隊、沖縄・ひめゆり学徒隊、北海道の占守島を守った日本兵の史実などをテーマにした創作落語を作り、毎年、終戦の8月などに合わせ、披露してきた。今年も行うという。「50代が一番面白い…」は、23
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