のようないきさつを伝えると、お便りをくださった。その一部。《何度となく山上参りに洞川に来られていたことを知り、嬉しく思いました。わたしは「一の行場、蟷螂の岩屋」という洞窟の案内を幼児のころからしていました。ひょっとすると、お会いしていたかもしれないですね。》「蟷螂の岩屋」はわたしも訪れたことがあり、たしかに地元の子どもが案内をしていたことを思い出す。中学生ぐらいの子は、山上の茶店で売る品物を背負って運び上げていた。大変な重労働だが、親を助けてのアルバイトだったのだろう。そんな時代だったのだ。さて詩集『スケッチ』だが、その表紙がユニークである。「あとがき」にこうある。《表紙には七月に他界した郷里友人の意を受け、二人で楽しみながら計画していた山小屋のスケッチをデザインとして使った。》とある。詩作品には具体的に山のことは書かれていないのだが、詩集の背景には、大峰の深い山々が連なっているようにわたしには思われる。中の一篇、「星をすくう」を紹介しよう。一字空けのところは詩では改行になっている。 ひと筋 ふた筋と 渓谷の空を渡 り 岩陰に青白い尾を引いて 消 えては現れる 夥しい星の ささ やきかける とくべつな夜だと わかった 父は いない 川の流 れがどこかでつながり ひそやか な瀬音と共に 少年の体の内を流 れていく 自分のみえない 漆黒 の闇の中に 見上げると 星々は 輝きを増し 夜の洞窟も怖くは なかった この夜の光を宿した流 れは 見失うまい そう言い聞か せて 淵に入り いくつかの星を 両手で そっとすくい 誰もいな い案内小屋の まくら元に置くと バケツの水面が揺れて つよく 光ったなお、著者の橋田さんは、神戸の同人誌「VIKING」の維持会員(元同人)。(実寸タテ8.3㎝ × ヨコ19㎝)■今村欣史(いまむら・きんじ)一九四三年兵庫県生まれ。兵庫県現代詩協会会員。「半どんの会」会員。西宮芸術文化協会会員。著書に『触媒のうた』―宮崎修二朗翁の文学史秘話―(神戸新聞総合出版センター)、『コーヒーカップの耳』(編集工房ノア)、『完本 コーヒーカップの耳』(朝日新聞出版)ほか。■六車明峰(むぐるま・めいほう)一九五五年香川県生まれ。名筆研究会・編集人。「半どんの会」会計。こうべ芸文会員。神戸新聞明石文化教室講師。107
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