KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2023年2月号
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は手術した患者さんの病理標本を毎週末に全部自分でチェックして報告書を作成し、不明な点は病理の先生に質問して、納得できない点についての根拠を示し、ディスカッションしながら治療方針を決め、患者さんに説明しました。癌研での経験が大きな自信につながったからできたことです。一枚の病理報告書の背後には隠れていることがたくさんあり、病理医と積極的にディスカッションして初めてわかってくることがあります。若い先生には「短期間でも構わないので必ず病理を勉強しに行きなさい」と話しています。―乳がんの原因は解明されているのですか。 がん自体の原因は未だ全てはわかっていませんが、いくつかのタイプに別れることが解明されてきました。乳がんは、女性ホルモンを栄養にする性格を持つタイプ、がんを大きくする信号を出すHER2タンパクをたく進歩する乳がんの治療法分かってきた遺伝子との関係さん持つタイプ、どちらも持つタイプ、どちらも持たないタイプ、の4つのタイプに大別され、それぞれのタイプ別に治療方針が追求されてきました。癌は遺伝子異常が原因の疾患であり、複数の遺伝発現パターンで乳がんがいくつかのタイプに分かれることが2000年に初めて発表されました。それ以降、これらの分類と分子生物学的特徴の解明、治療薬の開発が加速化され、毎年、新たな治療方針が立てられるようになっています。―遺伝的要素もあるのですか。遺伝性乳がんは、乳がん全体の5〜7%を占め、そのうちで最も多いのが、BRCA1またはBRCA2という2つの遺伝子に異常を持つ人が発症する可能性が高い「遺伝性乳がん卵巣がん症候群」です。この2つの遺伝子異常の検査は一定の条件を満たす患者さんには保険が適用されています。甲南医療センターでは昨年6月に遺伝外来を開設し、今後は大学病院やがんセンターと連携して遺伝性乳がんの診療体制を構築していきたいと考えています。―異常のある遺伝子が見つかれば予防ができるのですか。BRCA1またはBRCA2異常が原因の乳がんについて言えば、早期発見できるようにフォローすることができます。あるいは、乳がんになりそうだと分かったら乳房を予防的に取ってしまうという方法も選択肢としてあります。アメリカでアンジェリーナ・ジョリーさんが手術で乳房を予防切除したことで「遺伝性乳がん卵巣がん症候群」は日本でも広く知られるようになり、遺伝性乳癌の診療体制整備も一気に進みましたね。薬で予防する方法もありますがまだ開発の段階です。検診もなく発見が難しい卵巣がんについてリスクが高いことが分った場合は、卵巣が機能しない年齢に達してから手術で取ることも選択肢の一つです。当院は昨年九月より、BRCA1またはBRCA2異常が見つかった方の予防的乳房切除、予防的卵巣切除の実施認定施設になっています。84

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