KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2023年2月号
38/124

自然に自身の人格の一部を曝け出せるかだ。彼の演技には鬼気迫る瞬間があり、彼なりの心の暗部を垣間見た気がした。演技はプロもアマチュアも関係ないなと思えた現場だった。この年の後半は、人気絶頂の漫才コンビ、西川のりお上方よしおの御両人らと流行りのギャグパフォーマンスビデオの制作もしながら、相変わらず映画三昧の日々だった。映画を見ないと生きている気がしないし、映画館はボクの精神安定剤だった。 84年の初夏に封切られた『晴れ、ときどき殺人』は角川三人娘の一人、渡辺典子主演のただのお伽話に過ぎないが、せめて異色な風合いのニューシネマにできないものかと、音楽家の松任谷正隆さんにも出演してもらった。それも何と!女性ばかり狙う殺人鬼の役で、このミステリーの最後を飾ってくれたのだ。彼がNHKドラマで、初めて俳優として自然体で役を愉しんでるのを見ていたのでお願いしたのだ。俳優は如何に8月には『零戦燃ゆ』というノンフィクションの戦争モノも見た。『仁義なき戦い』(73年)の名脚本家、笠原和夫の作品だったからだ。でも、製作者の大平洋戦争の反省メッセージが伝わってこなくて、がっかりだった。「笠原さん、この戦争兵器をどう考えろというんですか」と悩んだ。ボクもいつか戦争モノを撮るか知れないが、人間は忌まわしき戦争をなぜ映画で見たくなるのか?そこがまだ解っていなかったのだけど。井筒 和幸映画を かんがえるvol.23PROFILE井筒 和幸1952年奈良県生まれ。奈良県奈良高等学校在学中から映画製作を開始。8mm映画『オレたちに明日はない』、卒業後に16mm映画『戦争を知らんガキ』を製作。1981年『ガキ帝国』で日本映画監督協会新人奨励賞を受賞。以降、『みゆき』『二代目はクリスチャン』『犬死にせしもの』『宇宙の法則』『突然炎のごとく』『岸和田少年愚連隊』『のど自慢』『ゲロッパ!』『パッチギ!』など、様々な社会派エンターテイメント作品を作り続けている。映画『無頼』セルDVD発売中。38

元のページ  ../index.html#38

このブックを見る