KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2023年2月号
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のは作家の僕であるが、作品の良し悪しとは別に、長年の創作活動を通して、忘れ難い作品や、他者の評価とは別に、自分の気に入った作品などを展示したが、結果的に自伝的要素が強くなったように思う。僕は自分の作品を趣味として捉えている。作品を通して社会に何かをアピールするとか、プロパガンダ的な目的とか、そうした外部への関心よりもむしろ内的世界の確立を目的とする傾向が強いように思われる。そういう意味では自我が出ざるを得ない。その結果、私小説的世界に落ち込む危険性だけは避けたいと思っている。レンブラントのように「私」を描くことで「私」を超克して、普遍的世界の表現へと上昇させる技術と能力は、常に僕の憧憬の対象でもある。いかなる作品も「私」から出発する。つまり「個人」から出発して、「個」という普遍に到達しなければならない。冒頭の「自我自損」は「個人」が「個」になり得ない状態を言っているのである。これは一種の悟りであり、そう簡単に普遍的「横尾忠則 自我自損」展 滝のポストカードのインスタレーション16

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