計画していたもので、やっと陽の目を見ることができた。この滝のポストカードは、最初、滝の絵を描くための資料として集め始めたものである。世界中の歴史的な滝のポストカードを集めるために、アメリカのカムデンという小さい町のアンティークショップの老婦人によって集められたもので、最終的に1万2千枚を越える膨大なコレクションになってしまった。本当は100枚位のポストカードを集めるつもりだったのが、アメリカ中のアンティークショップの協力に歯止めが利かなくなってしまった結果の数である。せっかく集まった滝のポストカードを、このまま仕舞い込んでしまうのは勿体ないと思い、ポストカードの供養のつもりで展示したいと思ったのがインスタレー神戸で始まって 神戸で終る ㉟するが、僕はそこまでシリアスに考えていない。むしろカジュアル的な発想で、ジョークのつもりであった。本展出品作は、過去の旧作や平成2年にインドのアーメダバードの映画看板を描くシネ・アーティストの職人とコラボレーションをした巨大な絵や、長年集めた滝のポストカード1万2千枚の中から相当数選んで、展覧会場の一角に個室を設置して、その内部空間を滝のポストカードで埋め尽くすというインスタレーションを行った。この滝のポストカードのインスタレーションは、ニューヨーク、パリ、ローザンヌの海外を始め、国内でも4カ所の美術館でも展開して、好評を得ていたので、ぜひ横尾忠則現代美術館でも展示したいと美術館の設立当初から「自我自損」展は、作家がキュレイターとして自作を構成するという展覧会である。この展覧会の企画は、自分から提案したのか、それとも学芸員から指名されたものなのか、今では記憶がないが、いずれにしてもメンドーなことになったわい、というのが本心である。最初、担当の山本淳夫さんから「自我自賛」展というタイトルを提案されたが、これでは文字通り、自我の主張を賛美することになるので、もう少し謙虚なタイトルで「自我自損」展に変更することにした。「自我自損」とは「エゴに固執すると損をする」という意味の造語であるが、この語を受けて山本さんは「絶えざる自己否定をする横尾の一貫したテーマで、自我からの解放を反映するものだ」と解説Tadanori Yokoo美術家横尾 忠則撮影:山田 ミユキ14
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