KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2023年1月号
48/148

た。誰が裕福なのか見分けがつかず、人々はつましい現実を嫌い、もがいていた。何年か後に経済が破綻するとは予想していなかった。ボクは何が「おいしい生活」か分からなかった。東京に親友はいなかったし、都会の世知辛さにため息をつき、息が詰まると郷里の奈良に逃げ帰った。生きる糧になった映画は思い出せない。社会を撃つ問題作もなかった。郷里で田園風景を眺めて、自分はどんな映画を作ればいいのかと悩んでいた。「トワイライトゾーン/超次振り返ってみると、1980年代は人々が欲望のままに虚栄を生きた時代だ。ボクも企業のコマーシャル映像を作る仕事もして忙しかった。「おいしい生活」なんていうデパートの宣伝コピーに煽られたか、人々は金を稼げるだけ稼ぎ、贅沢に憧れ、見栄を張って生きていたように思う。東京の地下鉄車内ではアルマーニのスーツをだらしなく着た若者が漫画週刊誌を読んでいた。通りでは赤い口紅の女子大生がロレックスの時計をしてBMWを走らせてい元の体験」(84年)というオムニバス映画があった。スピルバーグ製作と聞くだけで調子の良すぎる話は嫌だったが、これは理由があって観た。第一話に登場するビック・モローに逢いたかったからだ。少年の頃に夢中で見た超人気戦争ドラマシリーズの「コンバット!」で、サンダース軍曹役で世界中に名を馳せたのが彼だ。サンダースは戦場でいつも冷静な判断を下してナチスと戦い、同時に、正義と邪悪の先にある戦争の虚無さえも毎週、教えてくれたのだ。その彼井筒 和幸映画を かんがえるvol.22PROFILE井筒 和幸1952年奈良県生まれ。奈良県奈良高等学校在学中から映画製作を開始。8mm映画『オレたちに明日はない』、卒業後に16mm映画『戦争を知らんガキ』を製作。1981年『ガキ帝国』で日本映画監督協会新人奨励賞を受賞。以降、『みゆき』『二代目はクリスチャン』『犬死にせしもの』『宇宙の法則』『突然炎のごとく』『岸和田少年愚連隊』『のど自慢』『ゲロッパ!』『パッチギ!』など、様々な社会派エンターテイメント作品を作り続けている。映画『無頼』セルDVD発売中。48

元のページ  ../index.html#48

このブックを見る