KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2023年1月号
46/148

「これを読んでかしこくなって、将来、いい生活しようと思ってんだ」その横で土方歳三はまじめな顔でつぶやく。「『尊皇攘夷』と一声さけんどかないと、いまの時代はかっこつかねえんだ」いずれも建前から遠く離れた本音だろう。近藤たちはもともと農民の出で、武士に憧れて剣道を学んだ者たちである。武士道新選組を題材にした小説や映画は多いが、そのほとんどがしかつめらしい建前の描写に終始している。もちろんそういう側面もあっただろうが、水木サンの描く『劇画近藤勇』には、たぶん実際はこんなんやったのやろなと思わせる日常と、身もふたもない本音が描かれている。たとえば、近藤勇が「日本外史」を読んで勉強しながらこう言う。に対する思いは、生来の侍より深いものがあったはずだ。しかるに水木サンの描く近藤勇は、武士道についてこううそぶく。「なにかというとすぐ腹を切るのだ。これがまたすんばらしいじゃないか」「人殺しは武士道に限るよ。はははは」生真面目な本物の侍からはまず出ないセリフだろう。勝海舟に紹介されたインテリの剣客、伊東甲子太郎を知られざる  水木しげる水木しげる生誕100周年記念冴えてる一言満載の『星をつかみ損ねる男・劇画近藤勇』PROFILE久坂部 羊 (くさかべ よう)1955年大阪府生まれ。小説家・医師。大阪大学医学部卒業。大阪大学医学部付属病院にて外科および麻酔科を研修。その後、大阪府立成人病センターで麻酔科、神戸掖済会病院で一般外科、在外公館で医務官として勤務。同人誌「VIKING」での活動を経て、『廃用身』(2003年)で作家デビュー。vol.446

元のページ  ../index.html#46

このブックを見る