KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2023年1月号
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物語はどのように生まれたのですか。人がいなくなった、人が少なくなっていった場所を悼むような職業があったらどうなんだろうとずっと考えていました。舞台挨拶で全国各地をまわったり、自分の田舎に帰ったりすると、かつては賑やかだった街が、過疎化が進み静かになっているのを目の当たりにします。土地を拓くときや家を建てるときには繫栄の願いを込めて地鎮祭など祈りの儀式を行いますが、終わるときはただ寂しく廃れていく。ならば、そんな街や土地を鎮めるための祈りを捧げる人がいたら――。「閉じ師」という職業を考えたのはそんな思いからです。そうやって、日本中の色々な場所にある寂しく終わっていく土地を巡ることができたら、それは物語になると考えました。九州で暮らしている主人公すずめが東へ向かう旅の途中に神戸に留まります。神戸を物語の舞台のひとつに選ばれた理由を教えてください。今日ここに来る新幹線の中で、ロケハンで神戸に来たことを思い出していました。みんなでいろんな話をしながら神戸市内を歩いていたのは、ちょうど2年半前のことです。ストーリーを考えていくうちに九州からスタートすることが決まり、東に向かって進んでいく流れが出来上がりました。そのルートを考えたときに神戸は物語的に必然の場所でした。すずめは過去に辛い出来事があったかもしれないけれど、それらを乗り越えて今を明るく生きている女の子です。そんなすずめには、旅の中でいくつかの出会いがありますが、ごく普通の、にぎやかに楽しそうに暮らす市井の人に出会ってほしかった。神戸ならそんな人に出会えると思いました。また、神戸の方言はゆったりとしていて、そばで聞いていたら安心できるなと思ったこともあり、それが描きたいキャラクターの人柄と一致したのかもしれません。旅で触れ合ったあたたかな思い出として、すずめの心に残るといいなと思って描きました。コロナ禍での制作となりましたが、作品に影響はありましたか。 移動の制限が強くあった時期に脚本を書いていたので、誰もがそうだったように、理不尽に狭く小さな場所に閉じ込められている感覚が、僕にもあったと思います。その気持ちが椅子に閉じ込められた草太というキャラクターに投影されたと思いますが、その一方で、また晴れやかな気持ちで自由にどこへでも出掛けていくことができる世界に早く戻37

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