KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2023年1月号
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 が、虚子自身は真之とゆききがあったわけではない。》ここに出て来る真之はこの物語の三人の主人公、の一人である。あと二人は、真之の兄、秋山好古と真之の友人、正岡子規だ。ここでわたしはこの小説の解説をしようとは思わない。高浜虚子についてである。といっても虚子の俳句を論じるわけでもなく、そんな力はわたしにはない。実は、わたしは虚子の直筆ハガキを所持しているのだ。兵庫県文化の恩人ともいえる宮崎修二朗翁から託されたもの。そのハガキの裏面に虚子の署名がある。通信文はなく、「虚子」とのみ。それもごく小さな文字で慎ましく、まるで虫がうずくまるような姿。虚子は頑なだったという説もあるが、この署名を見ると、顕示欲のない好もしい人物のようにわたしには思えるのだが。発信地は鎌倉市。昭和30年1月4日消印の往復ハガキである。察するにこのハガキは、ある文学ファンが虚子宛にサインを求めたものであろう。その返信ハガキというわけだ。「喫茶輪」にはこのような有名文人からのハガキが100通以上もある。わたしは2年ほど前にテレビ番組「なんでも鑑定団」にこれを応募したことがあった。しかし反応なく、その後忘れてしまっていた。ところがこのほど、東京の番組スタッフから電話があった。「まだ決まったわけではありませんが、事情を聞かせてください」と。さてどうなるか。(実寸タテ15㎝ × ヨコ10㎝)■今村欣史(いまむら・きんじ)一九四三年兵庫県生まれ。兵庫県現代詩協会会員。「半どんの会」会員。西宮芸術文化協会会員。著書に『触媒のうた』―宮崎修二朗翁の文学史秘話―(神戸新聞総合出版センター)、『コーヒーカップの耳』(編集工房ノア)、『完本 コーヒーカップの耳』(朝日新聞出版)ほか。■六車明峰(むぐるま・めいほう)一九五五年香川県生まれ。名筆研究会・編集人。「半どんの会」会計。こうべ芸文会員。神戸新聞明石文化教室講師。113

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