KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2022年12月号
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presents2019年3月に90歳でその生涯を閉じたフランスの映像作家、アニエス・ヴァルダ。キャリア晩年もその制作意欲は衰えず、多くのアーティストに影響を与えたヴァルダの最高傑作といえる『冬の旅』は、1985年にヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を獲得。1991年にようやく日本公開されたものの、正当な評価を得ぬまま忘れられた作品となっていた。女性監督の作品が再評価される機運の中、本作が改めて全国のミニシアターで再公開されるのはとても意義深いことだ。元町映画館でも、バーバラ・ローデンの『WANDA/ワンダ』や、ケリー・ライカートの『ミークス・カットオフ』など、さすらう女性が主人公の映画を上映してきたが、本作では若いホームレスの主人公、モナが自ら選んだ路上の日々を、群を抜くリアリティーをもって描いている。モナの衝撃的な姿からはじまる物語は、彼女の旅をたどる形で、それまで出会った様々な人たちの証言が挿入される。男性らが彼女の容姿や臭いについて言及するのに対し、女性たちはその自由さに憧れや嫉妬心を覚え、中には絆を深める者もいる。モナを映し鏡に、人々の欲望や価値観が露わになるのだ。支配されることを拒み、さすらい続けたモナの強い生命力をかき消すような弦楽器の連作曲が、その行く末を暗示していた。text.江口由美vol.12〜今月の1本〜彼女が選んだ路上の日々<その他の注目作>リトアニア独立へ至る10年の道のりを元国家元首の語りで紡ぐ4時間のドキュメンタリー大作『ミスター・ランズベルギス』や、辻凪子が監督・主演の活弁付き新作無声映画『I AM JAM ピザの惑星危機一髪!』、そして年末恒例の『ハッピーアワー』上映と、2022年の最後まで見逃せないラインナップです。©1985 Ciné-Tamaris / lms A2■『冬の旅』“SANS TOIT NI LOI”(1985年 フランス 105分)監督・脚本・共同編集:アニエス・ヴァルダ出演:サンドリーヌ・ボネール、マーシャ・メリル、ステファン・フレイス、ヨランド・モロー配給・宣伝:ザジフィルムズ元町映画館にて12月3日(土)より2週間上映。元町映画館神戸市中央区元町通4-1-1266席+1(車椅子)TEL.078-366-2636https://www.motoei.com/©1985 Cine-Tamaris/lms A2上映スケジュールはコチラ▶冬の旅 “SANS TOIT NI LOI”91

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