KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2022年12月号
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た町ですからね。けれど、人間は自分の価値観と合わないことや理解し難いものは受け入れにくいし、それを見なかったことにしたり、線引きをしたり、レッテルを貼ってしまう。逆に言うと、線引きしレッテルを貼ることで安心するんだと思います。僕のところに来る患者さんの中には、病気の苦しみの他に、まわりからの理解がなく受け入れてもらえないことで傷ついている人が、少なからずいます。患者さん本人だけでなくご家族もそうだと思うし、それでなおさら孤立することもあります。人を理解するために、病気を病気として理解することも必要だけど、その人の全部が病気でできているわけじゃない。人間同士のやりとりの中で人を受け入れることは、この町が、いろんな国の人、自分たちとは価値観も習慣も宗教も違う人たちを受け入れてきたのと同じことなんじゃないかと思うんです。―『自分の変化』も受け入れようもっと広く言うと、自分自身のことにしても、社会との距離感や他人との関係性も変わっていきますよね。成長もれば老化もある。病気にもなるし体力も落ちる。歳をとれば若い頃よりできないことも増えていく。見た目も変わっていく。今の自分は、なりたかった自分やあるべき自分の姿とは違うかもしれない。例えば女性が出産や閉経の前後に、男性が定年後にうつ病になりやすいのは、これまでそうだった自分を失ったことを受け入れられないころが原因となっている場合もあります。歳をとることで得たものもあるはずなのに、目に見える失ったものばかりが気になってしまう。変化をネガティブではなく、ポジティブに受け入れる。それはもしかしたら、自分の中の多様性を受け入れ、それと付き合っていくことなのかなと思います。―心からの「がんばれ」がもつ力例えば、うつ病の人に「がんばれ」と言ってはいけませんってよく言いますよね。この情報はいろんなところで見聞きするから、うつ病になった方のご家族や周りの方達は「がんばれ」を言いたくても我慢して言わないようにする。でも「もうちょっとがんばって」って言いたくなる場面もあるんですよね。それでも、言ってはいけない言葉として我慢する。飲み込む。でも何がなんでも絶対ダメではないんですよね。以前研修などで何度もご一緒した緩和ケア医の関本剛さんって方がいらっしゃいます。進行癌と診断され余命も限られていた中、抗がん剤治療を受けながら患者さんの診療を続けておられたんですが、ある研修会の時に彼が言っていたことが印象に残っています。治療の中で、周りの人たちも病気のことはよくわかっているだけに気を使い、言葉を86

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