KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2022年12月号
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に来たような不思議な感動を覚えながら、館長や学芸員の案内で会場に足を踏み入れた。3年ぶりの肉体的感触が急に蘇ってくる思いだった。この本展のキュレイションは平林恵さんによるもので、僕の作品をいくつかの色彩で分類して、作品の主題や様式というごく一般的な分類の仕方ではなく、色彩を主流に、例えば、赤、青、黄、緑、白、黒という具合に6色の壁の色の表面に、それに該当する色の作品を展示し、壁の色の中に溶け込むように展示された作品。それによって、作品を主題や様式から「解放」させて、鑑賞者にいやが上にも「色」を認識させるという、かつて、どの展覧会でも試みなかった、ごく単純な方法で、作家も意図しない次元に作品と神戸で始まって 神戸で終る ㉝りませんじゃお話にならないので、これを機に重い腰を上げたというわけである。3年ぶりの新幹線の車内からは、富士山の登頂部と裾野だけが見えて、中間部分は霞か雲かに覆われていたが、やっぱり富士山はいいなぁと、子どものようにはしゃいで、久しぶりの旅の醍醐味にしばし陶酔したものだった。3年ぶりで訪れる美術館は1階の係の人やミュージアムショップの顔見知りの人達の姿も変わっていて、一瞬戸惑いを覚えたが、蓑館長、以下学芸員スタッフが暖かく迎えてくれたのは3年ぶりの感動であった。何はともあれ、その話題の評判の『横尾さんのパレット』展を観なければならない。まるで、期待していた他人の展覧会を観3年ぶりに神戸に行った。コロナ禍で世間が委縮してしまったことが僕の行動を阻めたことに間違いはない。老齢と共に体力の低下も伴って、コロナを理由に全く外出しなくなってしまった。また、そんなあり余った時間を利用して絵を描く時間がうんと増えた。ここ1年だけで、100点(100号と150号)近い作品が描けた。50〜60代の最も精力的な時期でさえ40点は描けなかったことを思えば、86歳の現在、100点は我ながら感心している。コロナの野性的なエネルギーが乗り移ったのかな?今回、急に神戸に行きたくなったのは、目下開催中の『横尾さんのパレット』展を観た人からの評判があんまりいいので、作家の僕が見てません、知Tadanori Yokoo美術家横尾 忠則撮影:山田 ミユキ14

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