しか知る方法のなかった人物を生き生きとしたキャラクターで造形し、鮮やかに漫画で現代に甦らせた。子供から大人まで幅広い読者層を開拓し、難解な世界史を漫画で学ぶ楽しさを伝えた。今、大人気の漫画「キングダム」などへと続く、漫画で歴史を伝える文化を確立した、この横山の功績は計り知れないほど大きい。渡邉氏は著書の中で、こう強調している。《横山『三国志』だけで、「三国志」の世界は十分に把握できます》と。今年で16年目を迎えた「三国志祭」が今月、神戸市長田区で開催。地元商店街などを会場に三国志をテーマにしたパレードや展示会などが催された。横山が漫画で蘇らせた英雄たちの〝息遣い〟は、今も故郷の人々によって大切に引き継がれている。=終わり。次回は大岡昇平手から、この役名を考えついたと明かしている。壮大な歴史群像劇横山の創作魂は尽きることなく、さらに漫画の未開の分野を開拓していく。中国の歴史をテーマにした「三国志」、「史記」など壮大な列伝を長編漫画で発表。これまでの子供向けとされた漫画の概念を打ち破ってゆく。「三国志」は1971から1987年までの約16年間、長期連載され、コミックスは60巻まで発行。累計8000万部を超えるロングセラー漫画として、今も不動の人気を誇っている。新書「横山光輝で読む三国志」(潮新書)の著者で文学博士の渡邉義浩氏は同書の中で、「わたしが、『三国志』の世界に触れたのは、小学校の高学年のとき、横山光輝の『三国志』が最初でした」と明かし、「それ以来、『三国志』を専門として、大学の教員をしている今でも、横山『三国志』は、わたしの中で色あせない、『三国志』への感動をよみがえらせてくれる大切な本です」と綴っている。渡邉氏は、古典中国学の専門家で、「三国志学会」事務局長も務めている。日本を代表する〝三国志のスペシャリスト〟は、横山の長編漫画をきっかけに、学者を志したのだ。渡邉氏のように、横山が手掛けた「三国志」や「史記」を読み、その後の人生に大きな影響を与えられたという人は少なくない。横山自身は、作家、吉川英治の「三国志」を読んで感動し、「三国志」の連載を始めるのだが、漫画によって、その重厚な活字の世界観を、子供たちにも分かりやすく、そして、歴史上の英雄たちを、現代に生まれた人々に、より身近に感じさせることに腐心し尽力した。劉備、諸葛亮(孔明)ら活字でtext. 戸津井 康之119
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