業が医療を市場にしようと押し寄せてきていますが、これらも皆保険制度を壊す力となります。─医師会は国民皆保険を守ると綱領に謳っていますね。田中 国民皆保険は医師会の既得権だというとんでもない批判がありますが、このロジックは、特に新自由主義者とよばれる人たちが多用してきました。しかし、この論理は悪質であり、間違いです。もし既得権というならば、国民皆保険は日本国民全員の既得権です。医療という枠を超えた、日本の大切なセーフティーネットなのです。だから医師会は日本国民の一員として国民皆保険を守りたいと考えています。─でも、医療保険が民間になると国庫負担は軽減されるのではないでしょうか。田中 いいえ。結局国家コス─なぜそれが可能なのでしょう。田中 それはひとえに、国民皆保険制度のおかげです。他国は、日本ほど完成された公的保険制度を構築できていないのです。─皆保険制度は少子高齢化で維持できないのではという意見もありますが。田中 確かに少子高齢化は一つのマイナス要因ですが、本当の危険因子は違うところにあるんです。それは外圧です。利潤を追求する世界的な巨大製薬企業や外資系の民間保険会は非常に大きな資金力と政治力を有しており、時には国家的な武力を背景に圧力をかけてきます。国民皆保険が崩壊すると、民間保険の市場に置き換わり、保険会社が大きな利益を得ることになるでしょう。このほかにもGAFAなどの巨大IT企トも跳ね上がります。現に図1のように民間保険でまかなうアメリカでは、GDPに占める医療費の割合はOECDで断トツのトップで、それで悲鳴を上げてオバマケアとよばれる公的保険が導入されたのです。─国民皆保険制度はどんな点がすぐれていますか。田中 総合的にみて、高度な医療が受けられながら、患者は低コスト負担、国も低コスト負担、そして医師にも低コストで働いてもらうことができる点ですね。例えばアメリカの医師は日本よりはるかに高給です。しかし多額の民間保険料や訴訟費用が上乗せされているから高コストなのです。これは日本から見たらただ無駄なコストです。ほかにもさまざまな複合的メリットがあり、微妙なバランスの上で大変効率的に機能しているのが日本の国民皆保険制度です。94
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