KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2022年11月号
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向した時、アトリエがなかったために、美術館、テレビ局の通路、後楽園のボクシング会場、その他の場所を借りて制作することになった。公開制作を好んで行ったわけではないが、会場を借りる条件として条件が出された。それが公開制作だったというわけだ。大勢の観客を前にして絵を描くということは、ある意味で見せ物として肉体を晒すことでもある。僕の背後には事のなりゆきを監視している人達の視線と想念を背に感じて絵を描くわけで、一種の強迫観念を一身に受けながらの制作である。だけれども、マイナス要因だけではなくプラスの働きが一層創作に拍車をかけるということもある。どういうことかというと、衆目に晒された肉体からは一切の思考が停止してしまう。つまり脳の機能が停止して、肉体に脳細胞が移って、まるでアスリートのような感覚至上主義的になってしまう。思考が停止することによって肉体はフル活動する。だからアトリエで、じっくり構えて描く行為とは全く別の働きを横尾忠則 在庫一掃大放出展19

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