KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2022年10月号
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長になる奇想天外なアイドル映画がヒットしていたが、さすがに見る気はしなかった。しかし、翌年、その映画プロデューサーから読んだこともない漫画を原作に少年少女ものを撮ってみろと声をかけられるとは思わなかった。「君が嗜好してきたものから一度、目先を変えてみるのは必要だよ。次にいくためにはな」と言われた。その伊地智啓先輩からそんな誘いがなければ、ボクはいつか映画作りを諦めていたかも知れない。明日の発想を助けてくれ1981年は自作の『ガキ帝国』と『ガキ帝国 悪たれ戦争』が春と秋にたて続けに公開され、その後しばらく、ボクの心はもぬけの殻になって、新しい物語を発想する気にもなれず、虚ろな日々を過ごしていた。でも、現実がつまらなくて退屈で仕方ないから「映画」と向き合ってきたのだし、また自分の血肉になりそうな映画を探して回るしか他にすることがなかった。その年末、友人の監督が撮った「セーラー服と機関銃」という女子高生がやくざの組る映画はなかなか見つからなかったが、ジャック・ニコルソンがニューシネマの『ファイブ・イージー・ピーセス』(71年)以来、再び組んだボブ・ラフェルソン監督の『郵便配達は二度ベルを鳴らす』(81年)は収穫だった。1930年代のカリフォルニアの田舎が舞台で、主人公は道端の食堂にふらりと立ち寄る無職の流れ者で、得体の知れなさがボクに似ていて、映画を何本撮っていようと自分も只の放浪者だと改めて自覚できたからだ。原作は感情描写の少ない井筒 和幸映画を かんがえるvol.19PROFILE井筒 和幸1952年奈良県生まれ。奈良県奈良高等学校在学中から映画製作を開始。8mm映画『オレたちに明日はない』、卒業後に16mm『戦争を知らんガキ』を製作。1981年『ガキ帝国』で日本映画監督協会新人奨励賞を受賞。以降、『みゆき』『二代目はクリスチャン』『犬死にせしもの』『宇宙の法則』『突然炎のごとく』『岸和田少年愚連隊』『のど自慢』『ゲロッパ!』『パッチギ 』など、様々な社会派エンターテイメント作品を作り続けている。映画『無頼』セルDVD発売中。36

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