KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2022年10月号
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はい。もう一つは、これまで以上に、自分の等身大の感覚で作品作りをしていきたいと強く思うようになっていきました。どこか遠い国のお話ではなく、自分が今まで体験してきたこと、子どもの頃から見てきた川の音、風、山の木々で作品づくりをしたい。それを、抽象的な表現と合わせることで、りすとかえるの住む川辺の息遣いを表現できるのではないかと思ったわけです。―りすを救うかのように吹く風が、擬人化されているのもユニークです。 りすとかえるの1作目『りすとかえるとかぜのうた』は、5年くらいの制作期間を経て完成しました。さまざまなテキストを模索していく中で、山の中の話にするという案もあり、六甲山を歩きながらイメージを膨らませていた頃がありました。山にいると風が吹いてくるなと感覚的にわかるんですよね。こちらに向かってやってくる風がまるで生きているように感じる。それから、その頃、子供が幼稚園に通っていたんですが、子供が友だちと交流するなかで、遊びたいのにタイミングの問題ですれ違ってしまう様子など印象に残りました。そういう時の、見守るしかできない親の存在というのが、なんとなく風のようだなと感じました。そういう体験が合わさって風を擬人化するという表現を取り入れました。―見返しの絵だけは、クレヨンで描いたような別タッチの絵ですね。実は絵本の最初と最後の見返しの絵には違うところがあります。『りすとかえるとかぜのうた』のあとがきにも書いていますが、風景画の中の生きものの存在は、自然とくらべると小さくささやかだけれど、だからこそ、そこにポツンといるだけでとても愛おしいものに感じる。そういう気持ちから、前見返しと後ろ見返しの風景画に変化をつけました。そういう部分も発見して楽しんでいただけたら嬉しいですね。―新刊『りすとかえるのあめのたび』は、旅行を計画した日が雨だったという、雨の日ものがたりですが、途中で石を発見するところは高揚感がありました。石は乾いているときと水に濡れたときでは色も表情も全く違います。絵本の中で、かえるは川の中で石を拾います。雨の日だから見ることができる美しいものがあるけれど、石もその一つです。―せっかく計画した旅の日に雨が…というお話は、思うようにいかない人生を例えているようにも思えます。旅は、計画しているときから始まっています。行けなかったとしても、何をしようかと考えることが冒険だと思うのです。中学時代、旅の研究クラブに入っていたんですよ。地図と時刻表を見ながら、旅行行程やどこで駅弁を買うとか、着いたら何をすると計画だけの旅が楽しかった実体験を盛り込んで28

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