KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2022年10月号
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震災の前から、生活の場・仕事の場として、東京以外の場所を探していたのですが、それも関西圏まで広げて探すようになりました。神戸を訪れた時、山と海に挟まれた神戸の街に漂う空気感、光、風、そういったものがその時の自分たちには妙にしっくりときた。なにか大きな流れに運ばれてきたような不思議な縁を感じて、神戸に移住することを決めました。―それは大きな心境の変化ですね。神戸に拠点を移してすぐ神戸芸術工科大学での特別講義のお話がきて、ライブペインティングをしました。1800mm×1800mmの絵を描くということが、制作の上でもこれまでの描き方を変えるほど僕にとっては大きなことでした。―絵本にもその変化が影響していますね。神戸に拠点を移してはじめに作った絵本が『おやすみのあお』ですが、当初は、「おはよう」のあおから「おやすみ」のあおまで「1日の移り変わりの中にあるあお」を描く絵本にしようとラフ案を作成し、絵も描き始めたのですが、描き始めてみると、朝から夜まで描きわけなければいけないという窮屈さを感じました。しかし、夜だけにすると、時間的には短いけれど、夜という広い大きなものの中で表現できるのではないかと。編集の方に連絡して一旦白紙に戻し、ラフも何もない状態で思う存分夜のあおを描き、そこから完成した絵本です。―とてもポエジーで普遍的な絵本です。5年越しで生まれた新シリーズ『りすとかえるとかぜのうた』は川が舞台で、新たな代表作になりました。 この絵本を制作する前に、東京で開催した個展『A Boat.』では、水辺を抽象的な表現で描いた作品を展示しました。この作品群を制作したことで、木や草、水辺の風景を具体的には描かず、抽象化することによって、構図が固定されず画面の外側にも風景が広がっていく感覚がありました。そして、それを絵本でもできないかと思いました。―広がりを感じてもらう表現ということですね。植田 真(うえだまこと)1973年静岡県出身。画家、絵本作家。『スケッチブック』(ゴブリン書房)で絵本デビュー。『マーガレットとクリスマスのおくりもの』(あかね書房)で日本絵本賞を受賞。おもな作品に、『まじょのデイジー』(のら書店)、『おやすみのあお』(佼成出版社)、『ぼくはかわです』(WAVE出版)、『リスのたんじょうび』(偕成社 作:トーン・テレヘン)、『チョコレートのおみやげ』(BL出版 作:岡田淳)『りすとかえるとかぜのうた』『りすとかえるのあめのたび』(BL出版)など。さし絵・装画も多く手がけ、個展やライブペインティングも行なっている。ROKKONOMAD(ロコノマド)壁画担当。『りすとかえるのあめのたび』BL出版¥1,760自然を抽象的に描くと想像が広がる27

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