KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2022年10月号
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今村 欣史書 ・ 六車明峰連載エッセイ/喫茶店の書斎から   みちくさKOBE「良かった。お元気だったんだ」と思った。新聞の読書欄で知った本の著者名が懐かしい人だったので。潮崎孝代さん。この人、実は20年ほど昔に宮崎修二朗翁に伴われて「喫茶・輪」にご来店下さったことがある。翁は彼女のことを「いい文章を書く人です」と紹介してくださった。しかし、その後彼女とは年賀状を交わした時期もあったが、いつしかそれも途絶え、会うことはなかった。ところがこの春、神戸新聞に彼女の新刊本が紹介されて入手したというわけだ。『みちくさKOBE』(シーズ・プランニング・2200円)、サブタイトルを「ぶらり歩いてみませんか?」という。神戸の魅力的な案内書にもなっている。それもそのはず彼女は、1979年、さんちかタウンにあったインフォメーションこうべの窓口業務をスタートに、三宮駅前の案内所、「神戸総合インフォメーションセンター」で長年案内業務に携わってきたのだ。現在はセンター長。いわば、神戸案内のオーソリティーである。神戸の文化と歴史そして人を、昔に照らし、今に繫げて知るのに、これほど適した本をわたしは知らない。でもしかし、単なる案内書ではない。味わい深いエッセイ集といっていいであろう。楽しく、時には涙ながらに読めるのだから。花時計やポートタワー、異人館など、有名スポットはもちろんのこと、世にあまり知られていない、貴重な神戸の歴史遺産についての数多がやさしく柔らかな筆致で紹介されている。しかも、すべてと言っていいほど、彼女が自分の足で確かめた上で書かれているのだ。神戸に長く住む人でも、「こんな所があったのか!」と驚くような場所も生きたエピソードを交えて紹介されている。わたしはこの本を一気にではなく、毎日数ページずつ大切に読んだ。そんな中の、ちょっと個人的に心に響くページがあった。中学生の時に『シャーロックホームズ』をよく借りて読んだとある。わたしも同じだ。小学生の時は江戸川乱歩を、そのころ村上春樹さんも利用していたという西宮図書館で借りて読んだが、中学になってからは学校図書室で『シャーロックホームズ』を次々に借りて読んだのだった。 潮崎さんはわたしより一回りほど若いが、読書傾向に似たところがある。このページにはほかにもわたしに馴染みのある作家名がある。大江健三郎、開高健、高橋和巳、庄野英二、庄野順三ほか。しかも庄野順三については、今丁度読んでいるところだ。この本、実は彼女が神戸消防局の機関誌『雪』に13年間135回にわたって書き綴ったものを110

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