KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2022年10月号
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ど、全てのことが関わってきます。人間は誰もが病気になる可能性は持っていています。精神疾患になるリスクを持った人が、十分な養育を受けられず、いろいろな人に裏切られ、暴力や虐待を受け続けたとしたら、人に対する不信感を募らせて病気になってもおかしくないでしょう。幸い、そうではない道を歩んだとしたら病気にはならず、たとえなったとしても回復しやすいと思います。―予防や回復は不可能ではないということですね。日頃、患者さんを見て思うことは、成人に至るまでの間に必要最低限の人や社会に対する信頼感や愛着の形成ができていれば、予防や回復に対するリソースとエネルギーもその人の中に形成されているということです。―統合失調症や気分障害の治療法は?バイオの部分に相当する薬物療法が重要です。症状を抑える効果がある薬を用い、統合失調症の場合は幻覚や妄想、興奮を抑え、うつ病の場合は脳の中の神経伝達物質を活性化して回復を手伝います。並行してサイコの部分の専門医と話しをすることやカウンセリング、ソーシャルの部分の社会的サポートです。患者さんによってどの部分にどのように比重を置くのかを考えます。例えば症状を抑えることが重要なら薬物治療を重点的に、治療を尽くしたけれどハンディキャップが残ってしまう患者さんには社会的なサポートが必要です。―根治は難しいのですか。統合失調症に関していえば、約30~40パーセント、うつ病であれば70パーセント近くの患者さんが寛解すると考えられています。ただし再発しやすい病気ですから、いかに再発せず寛解を維持するかがとても重要です。また病気になったことで、本来経験するべき人間関係や学業、仕事などの社会経験が損なわれることを、できるだけ少なく済むよう治療を行い回復していただくことが大切だと考えています。―コロナ禍が引き金になっている患者さんは増えているのでしょうか。コロナによってそれまでの社会的役割や生きがいのようなものを損なわれたことで、うつ病を発症した方は大勢おられます。コロナ禍は現在も続いています。喪失感や傷が癒えないまま慢性的に経過している方も大勢おられると思います。予想がつかない状況ですから注視していく必要があります。しかしコロナ禍に限らず、近年は精神科を受診される患者さんは右肩上がりに増えています。(つづく)103

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