KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2022年9月号
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もいいがストーリーが作れるか?オリジナルが無理なら、どこかで漫画でも探してきてもいいし。すぐ考えなよ。大阪が舞台でいいよ。封切り日は3か月後の9月の中旬の番線だ。三浦友和主演の『獣たちの熱き眠り』というドンパチもののB面だな。一週間ぐらいで何か考えられるか?」とまくし立てられた。「はい」という間もなく、本部長は「でも、もう在日韓国人とかは出さなくていいよ。それと紳助竜介の漫才師もワンシーンぐらい出せるかな」と居丈高だった。でも、ここは戸惑ってる場合じゃないな。ボクはまた二つ返事で「分かりました」と部長の眼を見た。これがメジャー業界なんだなと思った。岩場の砕ける白波に三角マークの東映からの初仕事だ。受けて立つしかないとボクは仲間と早速に脚本作りにかかった。随分ぞんざいな注文だったが、その分、どんな物語でも作れそうだ。参考になりそうな洋画を探してたら、『ザ・クラッカー/真夜中のアウトロー』(81年)というジェームズ・カーン主演のアクションものの試写会があった。ボクよりひと回り上のマイケル・マンという、TVドラマの「刑事スタスキー&ハッチ」などは撮っていたが、劇場用はそれが初めての監督だった。なら、どこまで意気込んでどんな斬新なキャメラワークで銃撃シーンを見せてくれるか、カッコいいショットが発見できれば、真似てやろうと思った。芸術はマネから始まるんだと。金庫破りの裏稼業から足を洗おうと思ってる中古車販売の店長が、ウエイトレスの彼女とのんびり暮らそうと思った矢先に、組織のボスが盗みの大仕事を発注してくるという話だ。腕前を買われて断われずに引き受ける役は意地っ張りキャラの、名優ジェームズ・カーンには打ってつけだった。次作を頼まれたボクの気分と似て、画面を研究するどころか、物語に入り込んでしまった。共演の大泥棒役はカントリーフォーク歌手の大御所ウィリー・ネルソン。ボクの映画にもシブいキャスティングが必要だと思った。2週間で脚本を上げ、3週間で大阪ロケの準備をして、真夏の4週間、汗だくで撮影した。ボクが選んだシブいキャストはリアルな大阪弁をこなす姉御女優、山口美也子さんと落語家の月亭可朝さんだった。可朝さんは憎まれ役を怪演して大いに笑わせてくれた。タイトルは『ガキ帝国 悪たれ戦争』(81年)と大層だが、大阪の切ない青春劇なので、音楽は上田正樹さんに頼んで、彼の唄声でエンディングを飾ってもらった。当時の創作気分を振り返りたいのだが、未だにビデオ化されていない。自分で言うのもなんだけど、痛快作なんだが。今月の映画「愛のコリーダ」(1976年)「ザ・クラッカー/真夜中のアウトロー」(1981年)「ガキ帝国 悪たれ戦争」(1981年)55

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