KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2022年8月号
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(81年)がそこでかかるとは夢にも思わなかった。でも、試写を見た東京の評論家からは尺(時間)が長く冗漫だとか、関西弁が不明瞭で解らないと書かれ、口惜しくてならなかった。確かに素人役者の台詞は聞き苦しいし、カットつなぎやアクション場面は粗が目につき、反省していたのだが。封切り日、昨日まで野良犬のようにほっつき歩いていた自分が一遍に社会人にされたようで、もう後に引き下がれないなと思うと、自分が初めての一般映画、つまり、成人だけでなく少年少女も観られる映画、『ガキ帝国』が大阪はキタとミナミ、神戸は三宮、京都は京極、関西4館で先行封切りされた時はさすがに嬉しかった。しかも、梅田のニューOS劇場は鳴物入りの洋画を専門にかけていたロードショー館で、古くは『007/ダイヤモンドは永遠に』(71年)などがかかった上品な劇場だ。まさか、僅か1200万円で不眠不休の3週間で撮った『ガキ帝国』嫌になるだけだった。以来、その劇場に足を運んだ記憶はない。因みに、「封切り」は仕上がったロールプリントの入った丸い缶の封を切って今日から映しますヨという意味だ。画像をデジタル処理したディスクが映画館に配られる現代ではもう死語化している。今でもこんな言い方をしてるのはボクだけかも。フィルムで映画を撮ってきたし、死ぬまでフィルムで撮ろうと思う。「なぁ、このシャシン、いつ封切んの?」と死ぬまで言い続けるだ井筒 和幸映画を かんがえるvol.17PROFILE井筒 和幸1952年奈良県生まれ。奈良県奈良高等学校在学中から映画製作を開始。8mm映画『オレたちに明日はない』、卒業後に16mm『戦争を知らんガキ』を製作。1981年『ガキ帝国』で日本映画監督協会新人奨励賞を受賞。以降、『みゆき』『二代目はクリスチャン』『犬死にせしもの』『宇宙の法則』『突然炎のごとく』『岸和田少年愚連隊』『のど自慢』『ゲロッパ!』『パッチギ!』など、様々な社会派エンターテイメント作品を作り続けている。映画『無頼』セルDVD発売中。42

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