KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2022年8月号
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皆さんは今、何でもインターネットで調べています。でも図書館や本には思いもよらない出会いがあります。本を読むことは楽しいだけでなく、生きる力を与えてくれます。動物は遺伝子の力を駆使して生きていきます。その中で人間だけが文字というものを持ち、この特別な技術に支えられ知識や知恵を得て暮らしています。そして人間は自然の中だけでなく、社会で生きていく力がつきます。本を積極的に読んで、想像して考えることが大切です。決して学校の成績を上げるためではありません。私は神戸で生まれ、大学生になるまで六甲山の麓に住んでいました。当時はポートアイランドなどなくて海岸通りの中突堤がまちの先端でした。生まれたころから戦争が始まっていて小学校に入る前に神戸が爆撃されました。ロシアが侵攻したウクライナ東部の都市のような状態に神戸がなったのです。爆撃から逃れるために私と弟たちは母親と一緒に兵庫県佐用という所へ行きました。そこでは何でも自分たちで作らないと暮らしていけません。電話もスーパーマーケットも、もちろんスマホもありません。米、野菜、魚、肉、何も買えません。野菜は近所で分けてもらい、ニワトリを飼って卵を手に入れました。鶏肉を食べるのは特別な日だけなので、自分で仕掛けを作って捕るスズメが貴重なたんぱく質源でした。電気はなかなか点かず、栓をひねったら蛇口から水が出るわけでもありません。ガスがないので山で薪まきを集めて火をおこし、靴もないので自分で草わらじ鞋を編みます。都会育ちの私は学校の成績は少し良かったのですが、生きていく力では地元の子どもたちに全然敵いませんでした。彼らは自然の中にある理サイエンス科の力を使って、桁違いの生きる力を身につけていました。現代には便利なものはたくさんありますが、もっと基本的な生きる力をつけた上で使わなくてはいけません。今のウクライナを見ても、農業という基本的な力があるから戦禍でも国として何とか生き延びています。人間には「文字」という特別な技術がある便利なものは、「生きる力」をつけてから使うもの29

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