KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2022年7月号
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ひとつない表現行為だった。どこかの田舎町の風景を75ミリのレンズで捉えて、この荒涼こそ高度経済成長の果ての原風景だ!これぞ芸術だ!と一人でうそぶいてるだけだった。ボクが夢に見た、観客が血沸き肉躍らせる“大衆映画”とはほど遠かった。巷で『エイリアン』(79年)の悪夢に大衆が弄ばれてる隙に、ソ連軍はアフガニスタンに侵攻し、イラン革命が起こり世界は揺れていた。ボクは人生お先真っ暗というわけではなく、大阪のキタとミナミの裏街で喧嘩に明け暮れてばかりいる不良少年たちを描いた『ガキ帝国』(81年)を撮るまで、ボクは数多の映画と共に生きてはいたものの、1970年代は、自分が何者なのか分からないまま、ただ放浪し続けた日々だった。仲間と無我夢中でご飯もロクに食べずに作った映画も場末のピンク映画館にかけてもらうだけで精一杯。とても親に見せられるようなモノでなく、ただ自分の衝動だけの、観客の反応映画作りを止める気はなかったが、どんな意志を持って誰に見せるために撮るのか、それがまだ解っていないだけだった。スリリングなカナダ映画に出くわしたのもこの頃だ。街の片隅で封切られ、殆どの人の目に触れないまま消えた『サイレント・パートナー』(79年)は、白日夢を追う人間たちを見事に捉えていた。主演はエリオット・グールド。『カプリコン1』(77年)で、有人探査機の火星着陸計画を偽造し隠蔽工作したNAS井筒 和幸映画を かんがえるvol.16PROFILE井筒 和幸1952年奈良県生まれ。奈良県奈良高等学校在学中から映画製作を開始。8mm映画『オレたちに明日はない』、卒業後に16mm『戦争を知らんガキ』を製作。1981年『ガキ帝国』で日本映画監督協会新人奨励賞を受賞。以降、『みゆき』『二代目はクリスチャン』『犬死にせしもの』『宇宙の法則』『突然炎のごとく』『岸和田少年愚連隊』『のど自慢』『ゲロッパ!』『パッチギ!』など、様々な社会派エンターテイメント作品を作り続けている。映画『無頼』セルDVD、2021年11月25日発売。44

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