現在お使いの楽器は、かの有名な…?ストラディバリウスです。1717年製なので今年305歳です。長い年月、幾人もの人の手によって災害や戦争から守りぬかれ奇跡的に存在しています。この楽器はお借りしているものですが、所有しておられる方が「“楽器を買った”のではなく、“楽器の歴史を預かって”いる」と話してくださった時は、身の引き締まる思いがしました。“歴史”を意識し感謝しお付き合いしなくてはいけない楽器です。イタリア生まれのこの子を多湿の日本に連れてきているので、なおのこと。この楽器の素晴らしさはどんなところですか?この楽器にしか出せない音があります。それから私は、独特の振動を感じます。同じストラディバリウス製でも各々個性があり、主張があり、意思があり、音は全く違いますし、奏者との相性もあります。“もの”ではないですね。私はこの子と本当に分かり合えるまで時間がかかりました。ヴァイオリンに限らず、楽器の音は媒体を通すとそのまま伝わらないのが残念です。ぜひ生で聴いて頂きたいなと思っています。今月のコンサートでは協奏曲が続きますね。オーケストラのための曲が交響曲、オーケストラとソリストのために描かれたのが協奏曲です。様々な協奏曲がありますが、ヴァイオリン協奏曲の面白いところは、ソリストが使う楽器とオーケストラのヴァイオリン奏者が使う楽器が、同じというところ。フルオーケストラとの共演になると、1丁対約30丁です。オーケストラの方が台数が多いのに、ソリストが弾くメロディは埋もれることはありません。響きや重ね方など、よく考えて作曲されているからです。ヴァイオリンのそれぞれのメロディ、音色に注目するとより楽しんでいただけるかも。3曲ともどこかで聴いたことのある曲です。とても珍しい構成です。昨年11月に初めて東京公演でこのプログラムを演奏しましたが、公演が決まって、先ず始めたのがジョギングです(笑)。体力が必要だなと思って。ヴァイオリンは最初から最後まで立ちっぱなしですし、意外かもしれませんが全身で弾くので足腰の安定感が必要です。ジョギングを始めてみると晴れた日に走るって気持ちがよくて。苦痛なく体力づくりができたおかげで、公演で疲れを感じることはありませんでした。それより、拍手に包まれて幸福感の方が上回っていました。楽器ストラディバリウス協奏曲に挑むということ25
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