KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2022年7月号
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の僕に、東野さんは一体何を考えているのだろうと、その返事はワッハッハッと笑うしかなかった。最初は悪い冗談とばかり思っていたが、どうやらそうでもなさそうだ。「第一、版画なんかどうすればいいのかわからない」と言うと、「君はシルクスクリーンのポスターを作っているじゃない」と。まさかポスターを版画ですといって出品するわけにはいかんでしょ、と断ったが、「賞を獲ってもらいたい」と無茶苦茶な条件である。あんまりしつこい、それ以上に時間もない。丁度この頃、シルクスクリーンのポスターを作っていたので、その片手間にでも作るか、と3点シリーズの版画らしい作品を作った。その作品が、なんとグランプリを受賞したのである。とにかく驚いた。賞を獲って喜ぶのは僕ではなく東野さんだった。東野さんは自分の予想が当たったと、御機嫌であった。この時の作品は「責場」と題するエロ写真を素材にして作った作品である。(写真参照)それ以後、版画の依頼などがあって、東京国際版画ビエンナー責場 A 1969年 東京都現代美術館蔵責場 B 1969年 東京都現代美術館蔵16

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