夜行バスであんまり寝ていなくて売り込みもうまくいかなかった所為か、気分がすぐれなかった時だ。その年の初めにスピルバーグの『未知との遭遇』(78年)なんぞを観た所為もある。円盤や宇宙人に出くわすはずがないと思う者には恐ろしく退屈だった。そんなことも元から承知で観たのは女友達に誘われたからだ。おまけに、『北陸代理戦争』や『県警対組織暴力』と実録タッチで気を吐いていた深作欣二監督の、スペース1978年は、「普通の女の子になりたい」と言った少し年下のアイドル3人娘、キャンディーズが後楽園球場で最後のコンサートをして解散した年だ。無職者のボクは仲間らと2作目の小さな成人向け映画を企画しながら、もう普通の人生には戻れそうにないなと思っていた。その初夏、東京の配給会社に企画を売り込みに上京したついでに観たのが、『ローリング・サンダー』(78年)だった。国鉄のオペラと謳った『宇宙からのメッセージ』(78年)という、タイトルからしてピントのズレた東映らしくないSFモノも評判が悪く、友人が前の年にアメリカで先に観ていた『スター・ウォーズ』(78年)の陳腐なモノマネだと言うので、「深作は何をしとんねん!」と観る気も失くなった矢先だった。そんな様々なストレスから、その『ローリング・サンダー』に狙いをつけて、気を晴らしに行ったのだ。ベトナム戦争から帰還した兵井筒 和幸映画を かんがえるvol.15PROFILE井筒 和幸1952年奈良県生まれ。奈良県奈良高等学校在学中から映画製作を開始。8mm映画『オレたちに明日はない』、卒業後に16mm『戦争を知らんガキ』を製作。1981年『ガキ帝国』で日本映画監督協会新人奨励賞を受賞。以降、『みゆき』『二代目はクリスチャン』『犬死にせしもの』『宇宙の法則』『突然炎のごとく』『岸和田少年愚連隊』『のど自慢』『ゲロッパ!』『パッチギ!』など、様々な社会派エンターテイメント作品を作り続けている。映画『無頼』セルDVD、2021年11月25日発売。38
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