KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2022年6月号
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ることで、無言のまま壁に掛けられている絵画作品をまるで演劇的に変えてしまう不思議な技法によって平林は作品を鑑賞者の手元に引き寄せることで親しみを与え、作品と大勢の間の距離を無化させてしまう。この展覧会を見ながら、カタログを開くまで、こんなに面白い展覧会になるとは想像もしていなかった。この文章の最初にのカタログを見るのが好きだ。本展担当の平林は以前にも「ヨコオ・マニアリスム」展を企画した学芸員で、彼女の探求心はまるで考古学者のようで、膨大な資料の中から、僕でさえ忘れているようなものまで発掘して、作品の背後に隠されている秘密まであぶり出して、僕をいつも驚愕させてくれる。展示作品の背景の物語を悟山本学芸課長が語っているように、僕と旅が、僕の人生と作品をここまで密接に結びつけているとは気づいていなかった。では僕にとっては旅は何だったのだろう。膠着した生活からの解放だったのだろうか。環境を一変することで生活も作品も新しい文脈の地点に立ちたいという、切実な願望であったのかもしれない。それには旅が僕にとっ「ヨコオ・ワールド・ツアー」展 2017年 横尾忠則現代美術館15

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