KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2022年5月号
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ばならないのか。それらを売らなければ生きていけないような社会とは何なのか。誰が決めたのか、それは変だ、おかしいだろうと、この頃、そんなことばかり哲学したものだ。そして、その空白を埋めて時を満たしてくれるのが、映画と向き合うことだった。『ミーン・ストリート』(アメリカ公開73年)というニューヨークの摩天楼に沈むリトルイタリーの街をヒリヒリするリアリズムで捉えたカルトムービーがある。もう半世紀近くも経つのか。つい先日のことのようだ。お祭り気分で一緒に映画を作った仲間も去っていき、ボクはまた途端に一人になり、晴れと曇りの日だけ働ける古墳の発掘現場で人夫のアルバイトをしながら、さて、次はどんな作品を撮ろうかと空想する日々に戻っていた。でも、そんな心の空白を埋めてくれるのは単純労働ではなかった。どうして人は自分の身体や時間を売り物にしなけれミーンとは “卑しくて狡い”という意味だ。正業に就かず、いい加減な商売をする小賢しい大人どもの手伝いをして、あぶく銭を稼いで生きるチンピラ青年たちの日常が小気味よく活写されていた。生々しいニューヨークを描いた『タクシードライバー』(76年)でR・デ・ニーロとその相手役だった怪優のハーベイ・カイテルが主客逆転で取り組んだ作品だ。ただ、デ・ニーロが先に世界で注目された為か、このハーベイ主演の方は日本公開井筒 和幸映画を かんがえるvol.14PROFILE井筒 和幸1952年奈良県生まれ。奈良県奈良高等学校在学中から映画製作を開始。8mm映画『オレたちに明日はない』、卒業後に16mm『戦争を知らんガキ』を製作。1981年『ガキ帝国』で日本映画監督協会新人奨励賞を受賞。以降、『みゆき』『二代目はクリスチャン』『犬死にせしもの』『宇宙の法則』『突然炎のごとく』『岸和田少年愚連隊』『のど自慢』『ゲロッパ!』『パッチギ!』など、様々な社会派エンターテイメント作品を作り続けている。映画『無頼』セルDVD、2021年11月25日発売。52

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