KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2022年5月号
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「映画監督として重要なこと?作品を撮ることを絶対にあきらめないことです。そのためには種を撒き続けていくこと―ですかね…」この言葉には説得力がある。新作の「ツユクサ」は構想から公開までに約10年を費やしている。「5、6回企画が挙がっては潰れています」。その前作にあたる、笑福亭鶴瓶、小松菜奈、そして小林が出演した「閉鎖病棟―それぞれの朝―」は構想から8年越しで映画公開にこぎつけている。「脚本の第一稿を書き上げたのは映画が公開される8年前。『閉鎖病棟』は映画化の話など、まだ、まったくない中で温めていた企画でしたから…」長年にわたり大作を撮り続けてきた重鎮ヒットメーカーでさえ、思うままに新作を撮ることができない厳しい業界だ。「依然として映画界は苦しい。この状況は数十年前から何も変わってはいません。大作を撮ったからといって、監督が自由に新作を撮り続けることなどできませんから。ただ、種を撒き続けていれば、それが芽を出し、『閉鎖病棟』や新作の『ツユクサ』のように、いつか実る…。だから、絶対に作ることをあきらめてはだめなんです」エネルギッシュな表情、力強いまなざしで語る。「新作ですか? 準備していますよ。まだ話せませんが…」と言いながら、ヒントをこっそりと教えてくれた。「今、撮りたいと考えているのは、明治時代の物語。ただし、立身出世で活躍するヒーローの物語ではありません。市井を生きた庶民の人生を描きたい…」「ツユクサ」のエンドロールで流れてくる曲は、人気歌手で女優、政治家も務めた中山千夏が1969年に歌って大ヒットした「あなたの心に」。中山のデビュー・シングル曲だ。     かつて、音楽業界で働いていた平山監督ならではの感性が生きる劇伴も見どころ。映像とともに音楽も聞き漏らせない。「映画において、音楽はとても重要。私のこだわりで、この曲に決めました」と邦画界の重鎮監督は〝永遠の少年〟のような笑顔で語った。(戸津井康之)ツユクサ出演:小林聡美平岩 紙 斎藤汰鷹 江口のりこ 桃月庵白酒 水間ロン 鈴木聖奈 瀧川鯉昇 渋川清彦 泉谷しげる ベンガル松重 豊監督:平山秀幸脚本:安倍照雄 主題歌:中山千夏「あなたの心に」(ビクターエンタテインメント)公式サイト:tsuyukusa-movie.jp公式ツイッター:tsuyukusa_movie <全国公開中>©2022「ツユクサ」製作委員会29

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