を女性の裸や性描写を所々に挟んだ、俗にいう「成人映画」だった。当時のピンク業界では『未亡人下宿』シリーズで名を売る山本晋也監督や、エロスと思想を描く若松孝二監督が学生にも人気だったが、ボクは誰のためでもない、ボクらの仲間が一番見たい、大衆に媚びないニューシネマを作りたかった。意気込みだけは誰にも負けず、撮影前に気付け薬の代わりのように見た映画群を思い出す。撮る技術も役者の演ボクが誰から頼まれたわけでもなく、ただ作りたい衝動だけで初めて映画を撮るのは、1975年、南ベトナムのサイゴンが陥落して、大国アメリカがベトナムから敗退した、世界史の潮流が変わる頃だった。まだ22歳だが、ここらで人生に節目をつける時だった。映画は田舎の青年が女たちと戯れながら無為な日々を過ごすうち、こんなうだつが上がらない所にいても仕方ないと、東京に出て行こうと決心するまで出術もよく知らないボクは映画館でそれを習うしかなかったのだ。どれもこれも自由気ままに作られてよく出来ていた。『フリービーとビーン大乱戦』(74年)なんていう愉快なアメリカ作品がある。『キャッチ22』(71年)という反戦映画でトボけた顔が最高のアラン・アーキンと、『ゴッド・ファーザー』(72年)の中でマシンガンでハチの巣にされて死ぬ長男役がカッコよかったジェームズ・カーンの二人がサンフランシスコ市警井筒 和幸映画を かんがえるvol.13PROFILE井筒 和幸1952年奈良県生まれ。奈良県奈良高等学校在学中から映画製作を開始。8mm映画『オレたちに明日はない』、卒業後に16mm『戦争を知らんガキ』を製作。1981年『ガキ帝国』で日本映画監督協会新人奨励賞を受賞。以降、『みゆき』『二代目はクリスチャン』『犬死にせしもの』『宇宙の法則』『突然炎のごとく』『岸和田少年愚連隊』『のど自慢』『ゲロッパ!』『パッチギ!』など、様々な社会派エンターテイメント作品を作り続けている。映画『無頼』セルDVD、2021年11月25日発売。48
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